阿閦如来(阿閦
阿閦と言う漢訳文字に意味合いは無い、梵語名 Akṣobhya(アクショーブヤ)の音訳であり不
遥かに遠い東方にある
降伏・菩提・パワーの作用を持ち誓願・浄土・往生など阿弥陀如来と共通点が多い為に阿弥陀信仰に吸収された感がある。
密教の世界では智を表す金剛界の東方にあり、大日如来(中央)・阿閦如来・宝生如来(南方)・阿弥陀如来(無量壽、西方)・不空成就如来(北方)で金剛界五仏すなわち五智如来と呼ばれている、胎蔵界曼荼羅の五仏をも五智如来と呼ぶ人もあるがインド等に於いては大日経による胎蔵の大日如来は独尊が多い、また胎蔵界は理を主に表わしており、ここでは胎蔵界五仏を五智如来とは呼ばない。
五智如来とは五つの知恵を現すものである、五智とは *
「他土仏信仰」(注1)に於いては阿弥陀如来よりも早く、最初に現れたのは阿閦如来である、日本に於いては信仰の対象としての事例も八世紀頃行われた形跡もあるが、造像も極めて少なく金剛界曼荼羅の一尊として知られている程度である。
また薬師如来が曼荼羅に存在しない為同じ東方に位置する阿閦如来や不空成就如来(北方)を仝尊と見なす解釈があるが経典に於いても明確でなく無理がある、現存する像は坐像(結跏趺坐)であり、左手で衣の端を握り右手で触地印を結ぶ、因みに触地印とは釈尊の成道時の印を踏襲したもので覚りに於ける境地の堅固さを示している。
密教仏としての阿閦如来は中期密教に概ね限定されている日本密教に於いては大日如来に従う東尊で固定されているが、インド仏教が最後に採用しチベットで興隆している後期密教(タントラ tantra)では相違がある、別の分類に依れば「無上瑜伽タントラ」(注3)の時代に於いては金剛頂十八会の第十五会「秘密集会タントラ」の如来が女陰で説いたとする事(喩師婆伽処)により、大日如来は毘盧遮那として東方に下がり、代わって阿閦如来は最高仏となり、五仏の主尊すなわち法身仏として君臨する例もある、これはチベットやブータン密教にも請来され、秘密集会タントラに於いて阿閦金剛を中尊とした「秘密集合会聖者流三十二尊マンダラ」や三面六臂の主尊「阿閦金剛」は憤怒形で同じく三面六臂の「明妃触金剛女」を抱きしめる彫刻や絵画(チベットハンビッツ文化財団所蔵等)が存在している,因みにタントラとは通常は禁忌とされる性力を秘儀教義の中心とする哲学であるが、この場合はインドに成立した後期密教聖典の呼称を言う、また密教経典に於ける総称を言うこともある、またネパールのカトマンズ盆地にある、スヴァヤンブーナート(英・swayambhunath)寺院の仏塔の東面には阿閦三尊像が彫られている、因みに五仏に於ける主尊の交代はタントラ(tantra)即ち後期密教の特徴である、因みにタントラは佛教だけの現象ではなく ヒンズー教、ボン経、ジャイナ教にも存在している
八世紀過ぎの頃に時代、インドに於けるパーラセーナ王朝時代の遺品に阿閦仏と思惟される触地印の仏が三尊即ち弥勒菩薩と観音菩薩を従えた像がパ⁻トナー(partner)
浄土と阿閦如来の関連に付いて述べる、浄土すなわち「淨佛国土」の哲学が興ったのは「阿閦佛国経」を嚆矢としている、続いて「大無量寿経」「大品般若経」「華厳経、十地品、入法界品」「法華経」等に浄土が記述されている。
参考として述べれば大日如来の典拠となる大日経には大日如来の呼称は数回であり多くは毘盧遮那と記述されている、金剛頂経に於いては全てが毘盧遮那如来の呼称が使われている、日本に於いては大日如来の呼称が使用されているが、中国に於いては毘盧遮那如来及び遍照如来と呼称されていた(金剛頂経入門・頼富本宏著・大法輪閣 他)。
江戸時代に制度化された十三仏(注5)に阿閦如来は七回忌の本尊とされている。
報身仏 真言 オン アキシュビヤ ウン
注1,
因みに過去七仏は釈尊と同じ娑婆の世界仏説と荘厳劫の仏(過去の劫)と賢劫の仏(現在の劫)と各三尊説がある、過去七仏及び荘厳劫の仏と賢劫の仏に付いては如来編参照願います。
注2、 五智とは金剛界五如来の智慧である、 唯識では総てを超越した覚りの智慧を出世間智と呼び修行の段階を四智と言い 1、大円鏡智 2、平等性智 3、妙観察智 4、 成所作智としているが、密教に於いては最上位に法界体性智を置き五智として優位性を示している、但し五智と言う単語はインドやチベットでは見られない金剛界を智、胎蔵を理とする二元論は中国が起こりの様である。
注3、密教の四分類に所作タントラ(雑密の時代)、行タントラ(大日経の時代)、瑜伽タントラ(金剛頂経の時代)、無上瑜伽タントラ(後期密教の時代)となる。
通常タントラとはヒンドウー教の秘儀経典を言うが後期密教に於いては呪術・占星・祭式・医術などが加わる。
注4、 印相とはバラモンをルーツとした表示である、梵語ムドラー(mudraa)の漢訳で「印」「印契」等とも言う、長期に渡り熟成された印相の数は数千とも数万とも言われる。
印を最初に示した経典は「
合掌印の起源は五千年以上の歴史を有する、インドの風習で最古に属する印相でアンジャリ プラーナヤマ(Añjali Praṇāyama)と言い、降伏帰順・武器を所持しない証、帰依崇拝から挨拶になった、現在でも印度での挨拶は合掌からである。
注5 、十三仏 江戸時代に制度化された儀礼、十三仏とは中国の冥界信仰を参考にしているが日本独自の制度である、地獄に於ける亡者の審判を行う10尊、これを十王と言う、但し「十王経」から引用しているが、十三仏は経典に記述は無い、裁判官は()内。
十三仏の尊名を挙げると、*不動明王(初七日
金剛界五仏
如来 |
位置 |
印 形 |
色 |
部 署 |
智 |
属 性 |
適 用 |
梵語名 |
大日如来 |
中尊 |
智拳印 |
白色 |
佛 部 |
法界体性智 |
総徳 |
法界体性智(ほっかいたしょうち) 宇宙の真理を現す知慧 |
Mahāvairocana (マハーヴァイローチャナ) |
阿閦如来 |
東尊 |
触地印 |
青色 |
金剛部 |
大円鏡智 |
力 |
大円鏡智(だいえんきょうち) 森羅万象を鏡す知慧 |
akṣobhya (アクショーブヤ) |
宝生如来 |
南尊 |
与願印 |
黄色 |
宝 部 |
平等性智 |
財宝・幸運 |
平等性智(びょうどうしょうち) あらゆる機会平等の知慧 |
ratnasaṃbhava (ラトナサンヴァ) |
無量寿如来 |
西尊 |
常 印 |
赤色 |
蓮華部 |
妙観察智 |
慈悲・智慧 |
妙観察智(みょうかんさつち) 正しい観察の知慧 |
amitāyus Buddha (アミターユス ブッダ) |
不空成就如来 |
北尊 |
施無畏印 |
黒色 |
羯磨部 |
成所作智 |
作用・ |
成所作智(じょうしょさち) 必要な事を行う知恵 |
Amoghasiddhi (アモーガシッデイ) |
主な阿閦如来像
●親王院(和歌山県高野町)立像 銅像43,0cm 天平時代 当初からの阿閦仏かは不明
●法隆寺(宝物殿)坐像 木造漆箔87,0cm 藤原時代 胎内の梵字では阿弥陀如来の可能性が大きい。
●西大寺 坐像 木造漆箔 平安時代
●東寺(京都)木造(智) 大日284,0cm 阿閦136,7cm 室町時代 五智如来
●安祥寺(京都市山科区御陵平林町22)(智)木造漆箔 大日161,2cm 阿閦109,1cm 平安時代 五智如来
●大日寺 木造(奈良) (智)大日97、7cm 阿閦52,5cm 平安時代 五智如来
●遍明院 坐像 木造漆箔 大日91.2cm 阿閦51.8cm 無量寿51.4cm 不空成就52.0cm 藤原時代 岡山県邑久郡牛窓町 五智如来の内
●金剛三昧院 木造(和歌山)(智) 大日82,4cm 阿閦51,8cm 平安時代 五智如来
他に西大寺・地蔵院(京都)親王院(和歌山)等単体で存在するが何れも国による文化財指定は極めて少ない。
最終加筆日 2004年6月26日 2017年3月4日 2022年2月18日 4月11日 4月29日 2022年5月7日