虚空蔵菩薩

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梵語名 ākāśagarbhaアカ―シャ)虚空,(ガルバ)母胎の意訳であり「虚空の巨大な蔵」である、虚空蔵菩薩は三有(さんう)の中の虚空すなわち全宇宙に無限の智慧と功徳を持つ、仏教では宇宙を「空」と呼び空間に在る宝物即ち智・福・徳の蔵を言い虚空蔵とは限りない宇宙の広がりの中で恵み、宝を受けられると解釈できる、因みに密号を無尽金剛・風貴金剛・円満金剛などと言い、創建当時の東大寺大仏殿の毘盧舎那仏の脇持を如意輪観音と共に務めていたとされる、因みに三有とはtrāidatuka、天、空、地を言う様である、また欲界、色界、無色界の三界の意味もある。  
インドに於いては出自が定かではなく独尊としての信仰は八大菩薩もしくは十大菩薩の一尊程度の扱いで顕著ではなかった、中国留学以前から
空海も当時全盛を謳歌していた大安寺勤操大徳などから「虚空蔵求聞持法」(注2を学んだとされており篤い信仰者でもある、

この為日本では経典と共に信仰は盛んで、後に新義
真言宗の祖覚鑁臨済宗の栄西も学習している、因みに空海の自彫伝承を持つ虚空蔵菩薩像が弘仁寺(奈良市虚空蔵町・高野山真言宗)に本尊として安置してある。   Âkâśagarbha 
密教に於いては「求聞持法」と言う虚空蔵菩薩を本尊とする修法が著名である。
密教に於いて豊作祈願の菩薩であり
金剛峯寺神護寺 教王護国寺・観智院など金剛界曼荼羅から変化したとされる五大虚空蔵菩薩像を安置している、五尊の配置は中尊に法界虚空蔵菩薩があり大日如来の代理菩薩として智慧・解脱を担当する、東尊には金剛虚空蔵菩薩が担当し福徳(最勝)を、南尊は宝光虚空蔵菩薩(光り輝く)で能満(願いをかなえる)を、西尊は蓮華虚空蔵菩薩で施願(施し)を、北尊は蓮華虚空蔵菩薩で無垢(清浄)を夫々担当している、また五大虚空蔵菩薩は五穀豊穣を祈願する為に信仰されたとも言われる。
五大虚空蔵菩薩は五智如来から影向
(変化、出世)した尊格である、利益を得る為の修法に「金門鳥敏法(かのととりどしのほう)」が著名である。
大日如来が広大無辺の宇宙から利益・福寿・宝庫等を守護する菩薩に姿を変えたとも言われるが、記憶をつかさどる菩薩でもあり平安時代には官僚の登用試験などにも信仰されたようで、空暗記・そらんじる、などの言葉は虚空蔵菩薩の空から来ている。
記憶力信仰に対しては若き日の日蓮も日本第一の智者を祈願する等絶対の信仰者であった、また
地蔵菩薩の地中の蔵に対して虚空菩薩即ち宇宙の蔵であり両菩薩で陰陽を形成している、従って古くは地蔵菩薩と一体で造像された事もある様である。
虚空蔵菩薩の比類ない智慧功徳、神通力は「虚空蔵菩薩経」・「大集経、虚空蔵品」・「虚空蔵求聞持法」などに記述されている、特に
大安寺の勤操大徳(道慈律師)の請来した過酷な秘法である。
胎蔵曼荼羅系を請来し翻訳した「伝持の八祖」の第五祖・
善無為に依り、六世紀頃インドで成立した「虚空蔵求聞持法」正式には「虚空蔵(こくうぞう)菩薩(ぼさつ)(のう)満諸願(まんしょがん)最勝心(さいしょうしん)陀羅尼求聞持法(だらにぐもんじほう)」により虚空蔵菩薩信仰が行われる様になった、密教寺院に於いては修行道場として求聞持堂が置かれ本尊として描かれた虚空蔵菩薩を掲げて行が行われた、空海が学習した虚空蔵求聞持法は平安時代から修験道との関連が深い様子で山林修験者に活用された。
「虚空蔵求聞持法」であるが、菩薩を本尊として記憶力増進を目指す加持祈祷である、空海は現在の四国霊場・室戸山、
最御崎寺(ほつみさきじ)の近くの「御蔵洞」で感得している、最御崎寺の伝承では室戸岬から展望した景色に感銘して「空海」と言う名称にしたと言う。
秘仏の典拠として知られる経典に「虚空蔵菩薩能満諸願最勝心陀羅尼求羅尼経」「七倶胝佛母所説准提陀羅尼経」が知られている。
虚空蔵菩薩の化身とされる明王で八大明王の一尊として大笑明王がある、但し大咲明王とも言い
軍荼利明王と同尊である。
虚空蔵
求聞持法の本尊であり北斗七星信仰にも関連があるが、虚空蔵信仰は奈良時代に伝えられ、求聞持法(注2とは記憶法の呪術で空海による室戸岬「御厨人洞(みくろうどう)」での修法伝説で知られる、空海が求聞持法の満願日に明けの明星が口から入り記憶力が増幅したと言う、また密教に於いて虚空蔵菩薩は金剛界に於いて大日如来の変化尊と看做(みな)されている、対して胎蔵曼荼羅では地蔵菩薩を変化尊とされている。
死者を供養する
十三仏信仰との関連は不詳であるが京都に於いて十三参りが行われる、子供が十三歳になると記憶力増進を求めてか、虚空蔵菩薩を本尊とする西京区東山虚空蔵山町の法輪寺に参拝する習慣がある。 
虚空蔵求聞持法を感得云々に付いて岡野守也氏は人間の究極を探るトランスパーソナル心理学
Transpersonal Psychologyを学べば理解不能ではないと言う、トランスパーソナル心理学とは第四の心理学と言われる心理学で行動心理学・精神心理学・人間性心理学に続くとされている。 

姿形としては蓮華座に半跏で右手には多くは宝剣を持つが他に与願印または膝前に垂らす、左手には如意宝珠
(三弁宝珠)のある蓮華茎を持つ、頭には五仏を顕す宝冠を付ける場合が多い。
胎蔵界曼荼羅の中に虚空蔵院の中尊(密号・如意金剛)と釈迦院に金剛界曼荼羅の賢劫十六尊に在り大きな存在感を示している、形像としては五智宝冠を頭に頂き印相・持物に付いては胎蔵界曼荼羅の場合と求聞持法と多少異なる、即ち曼荼羅の場合は右手に剣・左に宝珠のせた蓮華をもつ、求聞持法の場合には右手は与願印を示し左は曼荼羅と同型をとる。法隆寺の百済観音は化佛の付いた宝冠が発見されるまでは虚空蔵菩薩説が有力であった、彫刻としての国宝はすくないが絵画には東京国立博物館に虚空蔵菩薩像 絹本著色 掛幅装 1311,184,8cm    大覚寺五大虚空蔵菩薩像 絹本著色1幅 147.5cm×133.0cm 鎌倉時代がある。  

真言 オン バサラ アラタンノウオン   


 

主な虚空蔵菩薩像

神護寺  坐像木造彩色漆補填五尊(五大虚空蔵菩薩)        *2015年3月13日、文化審議会(宮田亮平会長)から重文指定答申法界虚空蔵 99,1cm 金剛虚空蔵 96,4cm 宝光虚空蔵 97,6cm 蓮華虚空蔵 94,2cm  蓮華虚空蔵 96,4cm 平安時代、 官能的で神護寺の業用虚空蔵菩薩と同一作者と考えられている。

東京国立博物館絹本著色  掛福装 1311,1×84,8cm   鎌倉時代   東京国立博物館公式サイト
醍醐寺  立像木造 51,5,cm  平安時代         *2015年3月13日文化審議会(宮田亮平会長)より虚空蔵菩薩として国宝の答申を受ける(1909年、重文指定は観音菩薩として)
法輪寺  立像木造彩色 175,4cm 白鳳時代  

東大寺 坐像   木造漆箔木造漆箔 710,0cm  江戸時代  大仏殿                 

●額安寺 (奈良県山門郡山市額田部寺町)現在は文化庁所属 半跏像木心乾漆彩色平安時代の傑作  (51,5cm日本最古の虚空蔵菩薩像で密教伝来以前の求聞持法による像)  

広隆寺 (講堂)坐像木造彩色 233,3cm 平安時代                                        

●金勝寺(滋賀県栗東市荒張1394)半跏像 木造彩色 194,0cm 平安時代  

考恩寺 (大阪)立像木造彩色 169,0cm 平安時代  

亀翁(きおう)寺(愛知県稲沢市北市場町873 )坐像木造彩色玉眼 160,9cm 鎌倉時代
●北僧坊(奈良県
大和郡山市矢田町3516 )半跏像木造 60,8cm 平安時代

東寺 (観智院)木造(五大虚空蔵菩薩)  法界虚空蔵 73,5cmcm 金剛虚空蔵 75,4cm 宝光虚空蔵 75,0cm 蓮華虚空蔵 70,6cm   業用 虚空蔵70,1cm 唐時代        

●大師講 (岐阜県郡上市白鳥町石徹白)坐像銅像鍍金 87,8cm 鎌倉時代      

●勝因寺 (三重県伊賀市山出1658) 坐像 木造 94,8cm 藤原時代  

●能満寺 (福島県いわき市常磐西郷町忠多385 ) 坐像 木心乾漆 漆箔  62,1cm 天平時代

1 、五智宝冠宝冠に金剛界五佛(大日如来・阿しゅく(閦)如来・宝生如来・無量寿如来・不空成就如来)が配置されている。    

 

2、虚空蔵菩薩求聞持法(ぐもんじほう) 正式名称を「虚空蔵菩薩能満諸願最勝心陀羅尼求聞持法(のうまんしょがんさいしょうしんだらにぐもんじほう)」と言い、真言を百日間で百万回唱えると記憶方法・福徳・智恵の増進等を修める事が出来る密教以前の修法で若き日の空海もこれを受けてをり三教指帰にも使用されてい。  

 

3 、五大虚空蔵菩薩五大金剛虚空蔵とも言い五智如来(金剛界五仏)の変化尊(所変)として、如意宝珠の相を表現した像で法界虚空蔵(中央・解脱)・金剛虚空蔵(東・福徳)・宝光虚空蔵(南・能満)・蓮華虚空蔵(西・施願)・業用(ごうよう)虚空蔵(北・無垢)・を言う、代表的な五大虚空蔵に彫刻では神護寺、絵画では東京国立博物館の作品が国宝指定を受けている。

 


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最終加筆日 2004107日  2005419日  77日 2006115日 2009119日 2015年3月15日醍醐寺国宝指定 2016年4月2日 2019年9月24日 2020年4月14日 2022年3月27日補足  

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