金剛界曼荼羅

                              説明: C:\Users\Owner\katada202\kyoto\button1.gif              曼荼羅    胎蔵界曼荼羅    羯磨曼荼羅     仏像案内     寺院案内


中期密教の代表経典である「真実摂経(しんじつしょうきょう)(初会金剛頂経)を依経としている、金剛界の如来達を構成する曼荼羅であり菩薩時代(一切義成就菩薩)に一切如来から伝授されたとされる如来達である。
インドに始まりネパール・チベット等に於いて多くの曼荼羅maṇḍalaは製作されたが、インドやチベットに於いて金剛界曼荼羅は先に登場した胎蔵界曼荼羅を凌駕して最も重要視されていた、胎蔵界は「大悲胎蔵生曼荼羅」一種のみであるが、金剛頂系の場合は多数の経典が有り狭義に「初会金剛頂経」からでも・五部心観・八十一尊曼荼羅・現図九会曼荼羅の八会までなど、合計二十八種類が存在するが基本的には身中で想像するものと言える、横道に逸れるが典拠である金剛頂経には「金剛頂経十八会」にも「初会金剛頂経」(真実摂経)にも大日如来と言う尊名は存在しないが金剛界如来、すなわち日本の中期密教では大日如来であり、大日如来の衆生救済を著した構成である。

因みに真実摂経とは通常不空訳の「金剛頂一切如来真実摂大乗現証大教王経(大教王経)」のことを言う。

空海の請来した九会で構成される曼荼羅は不空の作と推定できるが、現在は日本独自のもので他国には存在しない様だ、金剛界曼荼羅は金剛頂経の内主に「初会金剛頂経」と理趣会は七巻理趣経から説かれるもので、胎蔵()曼荼羅と違い特に大日如来に於いて尊像が重複している(注4、九会の流線関係は「従果向因」と「従果」が言われ従果向因は向下門(下転門)と言い成身会(じょうじんえ)から三昧耶会(さまやえ)微細会(みさいえ)、供養会、四印会(しいんえ)、一印会、理趣会(りしゅえ)降三世会(ごうざんぜえ)降三世三昧耶会と移動する、果即ち向上門(上転門)は逆に移動する、因みに三昧耶とは梵語(サンスクリット  saskta)、サマヤsamayaの音訳で本誓(ほんぜい)を意味する、本誓とは如来、菩薩の誓願を言う。  

本来は独立した曼荼羅を集合し二十八ブロックに分類される場合もある、中央の会だけで描かれる場合が多いが金剛界曼荼羅は二八部(ブロック)で構成されている曼荼羅もある、日本の曼荼羅は金剛界品の六会に理趣会、降三世会等を加え九会纏めたと言える、因みにインド・チベットに於いては一会の曼荼羅が存在するのみである 

構成される曼荼羅の内容は、
・大曼荼羅
(仏像で示す) 
・法曼荼羅(微細会等、身密・口密・意密を三鈷杵・梵字{種子、bi ī k}に納める)  
・三昧耶曼荼羅(持ち物で意を現す) 
・羯磨曼荼羅
(供養会・行動を示す)で主に描かれている。  
須弥山の上にあり天界中の最高位の宮殿(注12(色究竟)(しきくきょう)である阿迦尼陀天akani
opta)王宮に於いて一切義成就菩薩(いっさいぎじょうじゅぼさつ)が覚りを得て金剛界如来となると金剛頂経にあるが金剛界如来とは大日如来(毘盧遮那仏)を指す。

主な金剛頂経群として「金剛頂瑜伽中略(しゅう)念誦経(略出念誦経)」 「金剛頂一切如来真実(しんじつ)(しょう)大乗現証大教王経(一切如来真実摂経)」 「一切如来真実攝大乗現証三昧(さんまい)教王経(金剛頂大教王経)」、を挙げるが、不空による概説書と言われる「十八会指帰(じゅうはってしいき)」に依れば*一切如来真実摂教王(真実摂経)、 *一切如来秘密王瑜伽、 *一切教集瑜伽、 *降三世金剛瑜伽、 *世間出世間金剛瑜伽、 *大安楽不空三昧耶真実瑜伽、 *普賢瑜伽、 *勝初瑜伽、 *一切仏集会拏吉尼戒網瑜伽、 *大三昧瑜伽、 *大乗現証瑜伽、 *三昧耶最高瑜伽、 *大三昧耶真実瑜伽、 *如来三昧耶真実瑜伽、 *秘密集会瑜伽、 *無二平等瑜伽、 *如虚空瑜伽、 *金剛宝冠瑜伽となる、因みに瑜伽(ゆが)とは和訳では相応となるが、梵語(サンスクリット、 sasktayoga即ちヨーガ、と理解すべきか。 


金剛界曼荼羅は即身成仏へのマニュアルである、即ち「五相成身観(ごじょうじょうしんかん)」を図形化したもので空と唯識の統合を示していると言う、五相成身観とは ・通達(つうだつ)菩提心 ・(しゅ)菩提心 ・成金剛心(じょうこんごうしん) ・証金剛心(しょうこんごんしん) ・仏心円満 と上り詰める(注7)
日本の場合1463尊で描かれ九区分に分類されて画かれる事から九会曼荼羅とも言う、前述の初会金剛頂経を典拠として智慧の世界を顕し大日如来は智拳印を結ぶ。

金胎両部の曼荼羅の内で金剛界曼荼羅は胎蔵界の理すなわち本有(ほんう)を言うが、金剛界は智を言い修行学習を強調される。
九会の配置は教学上の呼び方がある、向上門と向下門があり、向上門は降三世三昧耶会から逆時計回りに成身会へと修行の順位を示す、向下門(こうげもん)は成身会から降三世三昧耶会まで時計回りに教科順位を示している、因みに向上門を上天門・詳しくは上天門従因至果(じゅういんしか)とも言う、また向下門は下天門を下天門従因至果とも言う
また壇の西側に掲げられる事から西曼荼羅とも言われる。   詳細は曼荼羅の金剛界編を参照 金剛頂経は曼荼羅、注10参照
金剛界に君臨する如来は五智如来と言い、智慧の佛である。

金剛界曼荼羅は数種類の曼荼羅が請来されており「五部心観」と「八十一尊曼荼羅」等がある、前部は成身会を中心とした曼荼羅で正式名称を「哩多僧蘖(りたそうきゃり)五部心観」と言う、五部心観とは善無畏の「初会金剛頂経」に比較的忠実な曼荼羅で円珍が在唐中に恵果の孫弟子である唐密教の大家、青竜寺の法全(はっせん)師から授けられ円珍が自筆で奥書を認めた逸品と転写本があり三十七尊が蓮華座では無く鳥獣座の上に座し中尊は四印会が阿弥陀如来・一印会が金剛薩埵である、六会で成身・三昧耶・微細・供養・一切であるが九会も六会も典拠は金剛頂経にある。
五部心観(正式には哩多僧蘗囉(りたそうぎゃら)五部心観)伝持(でんじ)八祖の五祖、善無畏が伝えたとされるもので金剛界曼荼羅の原型と言える部分が多いが相違を挙げれば、頼富本浩著・金剛頂経入門・大法輪閣に依れば(1)五部心観では諸尊が獅子や象・馬などに乗るが九会曼荼羅に於いては乗らない、(2)中尊の印に相違があり五部心観の常印に対して九会曼荼羅は智拳印である、(3)一印会に於いて五部心観は金剛薩埵に対して九会曼荼羅では大日如来となる。
特筆すべきは金剛頂経には大日如来の呼称は無く金剛界毘盧遮那が呼称されている、気鋭の研究者達に依る曼荼羅図典・大法輪閣の金剛界曼荼羅解説に依れば大日如来の呼称は使用されていない、毘盧遮那如来が使われ釈尊と関連付けされている、因みに大日如来の智拳印は大日如来と衆生は本来”不二一体”である、即ち「生仏不二(しょうぶつふに)」を著している。
空海が請来した曼荼羅は5部からなる、 大毘盧舎那大悲胎蔵大曼荼羅一鋪 七幅    大悲胎蔵法曼荼羅 一鋪    第悲胎蔵三昧耶略曼荼羅一鋪    金剛界九会曼荼羅一鋪    金剛界八十一尊曼荼羅一鋪 である、この内が両部曼荼羅として著名であるがが金剛界に相当する、八十一尊曼荼羅は、合計で20種ほど現存している、九会ではなく「成身会(じょうじんえ)」一会で構成されている、円仁なども請来しており台密に於いて特に重要視している、同じ金剛界曼荼羅での九会曼荼羅とは相違が観られるが、最大の相違は九会に於いて大日如来等は蓮華座に坐しているが、八十一尊では五仏が獣座すなわち・大日如来が獅子座・阿閦如来が象座・宝生如来が馬座・阿弥陀如来が孔雀座・不空成就如来が金翅(こんじ)(ちょう)に坐している事である。
参考までに「金剛頂瑜伽中略出念誦経」金剛智訳では五鳥獣座を説き、「金剛頂一切如来真実摂大乗現証大教王経
(三巻本教王経)」不空訳などでは蓮華座を説いている。


金剛頂経であるが円珍空海が広義の金剛頂経(金剛頂経十八会)を重要視したのに対抗して初会金剛頂経を前面に挙げたと思惟される。

また後部は空海の他に円仁請来の八十一尊曼荼羅がある、金剛界の成身会を著しているが尊数と姿形が異なり四大明王が加わり81尊で構成されている、五仏も鳥獣上に座しており大日如来が獅子・阿閦如来が象・宝生如来が馬・無量寿如来が孔雀・不空成就如来が金翅鳥に座しており、空海が最初に請来しているが、主に天台宗に於いて重用されている、因みに金翅鳥とは梵語でガルダ(迦楼羅)と言う空想された鳥で金色の翼を持ち両翼をのばすと336万里に及ぶと言う。  
尚五部心観は
転写本を含めて・園城寺の円満院本(巻頭欠落) ・高野山、西南院本(巻頭欠落) ・武藤家本(中間欠落) ・園城寺、法明院本(江戸時代転写) ・東京国立博物館本などがある。

以下に述べる五智如来の智は智慧(プラジュニャー、prajñā)であり知恵、知識(ヴィジュニヤーナ、vijñānaではない、但し五智とは唯識では総てを超越した覚りの智慧を出世間智(しゅっせけんち)と呼び修行の段階を四智と言い 1、大円鏡智 2、平等性智 3、妙観察智 4、 成所作智としているが、密教に於いては最上位に法界体性智を置き五智として優位性を示している、但し五智と言う単語はインドやチベットでは見られない金剛界を智、胎蔵を理とする二元論は中国が起こりの様である。
金剛界曼荼羅の特徴は女性尊の採用である、四波羅蜜に金剛波羅蜜、宝波羅蜜、法波羅蜜、羯磨波羅蜜、八供養菩薩、
供養女に金剛嬉菩薩、金剛鬘菩薩、金剛歌菩薩、金剛舞菩薩、供養女に金剛香菩薩、金剛華菩薩、金剛燈菩薩、金剛塗菩薩等々の女尊が居る、閑話休題、女性尊すなわち四波羅蜜の出自はヒンズー教から採られた様子である、金剛波羅蜜はヴィシンヌ(Viṣṇu)の妃で吉祥天、宝波羅蜜はガウリーGhawrīと言いシヴァ神の妃、羯磨波羅蜜はヒンズー教の女神と推定されている、例外は観音菩薩の目から発生した法波羅蜜すなわち多羅菩薩(ターラー tārā)、とされる

 


成身会の主な尊像と五尊の智慧 (五智如来)   (番号15は下図{金剛界曼荼羅}で尊像の位置を示す)
    大日如来(金剛界毘盧遮那)    中央尊 ・法界体性智(ほっかいたしょうち)宇宙の真理を現す知慧 「智拳印」  太陽光の白色   獅子座    密号・遍照金剛
      四方波羅蜜菩薩は 金剛波羅蜜菩薩  宝波羅蜜菩薩 法波羅蜜菩薩 業波羅蜜菩薩を従える、但しインドやチベットでは
十六大菩薩から *薩埵金剛女(sattvavajrī*宝金剛女(ratnavajrī*法金剛女(dharmavajrī*羯磨金剛女(karmavajrīが主流である。
   
  *「金剛頂経、現證三昧大儀軌分」には中尊は金剛薩埵を描く様に記述されている、但し原図曼荼羅の中尊は大日如来即ち毘盧遮那である(曼荼羅の見かた・小峰弥彦・大法輪閣)


    阿閦(あしゅく)  東尊  ・
大円鏡智(だいえんきょうち) 森羅万象を鏡す知慧  パワー  煩悩に屈しない大円鏡智  障害や悪の打破  夜明け前の青色 象座  密号・不動金剛・怖畏金剛  四方金剛菩薩 金剛薩埵菩薩 金剛王菩薩(アモーガラージャ amogharāja) 金剛愛菩薩(ヴァジュララーガ Vajrarāga)
 金剛喜菩薩(プラモーデイヤ prāmodyarāja)を従える、覚りの堅固さを示す「触地印」を結び象に乗る

  

   宝生如来 南 尊  ・平等性智(びょうどうしょうち) あらゆる機会平等の知慧、平等性智  財宝・幸運  南の太陽光の黄色 馬座  密号・平等金剛・大福金剛  
     四方金剛菩薩 金剛宝菩薩(vajraratna ) 金剛光菩薩(vajrateja ) 金剛幢菩薩 (ラトナケイトー (ratnaketu) 金剛笑菩薩(vajrahājsa)を従える、「与願印」すなわち右掌を下に正面を向ける、密教最大の儀礼で明治時代まで宮中(現在は東寺)で行われた後七日御修法(ごしちにちのみしゅほう)の本尊である。

   阿弥陀如来 西 尊  ・妙観察智(みょうかんさつち)正しい観察の知慧  現世を照らし観察、妙観察智  慈悲・智慧  無量寿  日没前の赤色  孔雀座  密号・清浄金剛・蓮華金剛 
     四方金剛菩薩 金剛法菩薩 金剛利菩薩 金剛因菩薩 金剛語菩薩を従える、参考までに金剛法菩薩とは観音菩薩が勧請を受けた密教名である、また文殊菩薩の勧請名は金剛利菩薩である、「禅定印」を結ぶ

   不空成就如来 北 尊  ・成所作智(じょうしょさち) 必要な事を行う知恵  総てを成し遂げる成所作智  作用・結果  日没後の緑黒色   ガルダ鳥座  密号・悉地金剛・成就金剛 
     四方金剛菩薩 金剛業菩薩 金剛護菩薩 金剛牙菩薩 金剛拳菩薩を従える、不安を除去する「施無畏印」を結ぶ。 
    内四供養菩薩 舞・嬉・鬘・歌  外四供養菩薩 塗・香・華・燈  四摂菩薩 鉤・索・鎖・鈴  四天 地・火・水・風  周囲    ・賢劫(けんごう)の千佛。

五智とは金剛界五如来の智慧である、 唯識では総てを超越した覚りの智慧を出世間智(しゅっせけんち)と呼び修行の段階を四智と言い 1、大円鏡智 2、平等性智 3、妙観察智 4 成所作智としているが、密教に於いては最上位に法界体性智を置き五智として優位性を示している。

枕に付ける金剛と言う文字は灌頂名を著し金剛界の灌頂を受領した尊挌に与えられる。 

東寺講堂の羯磨曼荼羅は金剛頂経と「仁王護国般若波羅蜜多経道場念誦儀軌」略して仁王経念誦儀軌をベースに自身の解釈を加えて構成された立体曼荼羅であると正木晃氏は言う。(空海と密教美術 角川選書)

剛界五仏

 如 来

位置

印形 坐

 部  署

    

  属 性

適    用

梵語名

大日如来(毘盧遮那仏)

中尊

智拳印
獅子座

白色

佛 部

 法界体性智

 総徳   

法界体性智(ほっかいたしょうち)

宇宙の真理を現す知慧

Mahāvairocana

(マハーヴァイローチャナ)

如来 

東尊

触地印 像坐

青色

金剛部

 大円鏡智

 

大円鏡智(だいえんきょうち) 

森羅万象を鏡す知慧

akobhya

(アクショーブヤ)

宝生如来

南尊

与願印
馬坐

黄色

宝 部

 平等性智

財宝・幸運

平等性智(びょうどうしょうち) 

あらゆる機会平等の知慧

ratnasabhava

(ラトナサンヴァ) 

無量寿如来

西尊

常印
孔雀坐

赤色

蓮華部

 妙観察智

慈悲・智慧

妙観察智(みょうかんさつち)

正しい観察の知慧

amitāyus Buddha

(アミターユス ブッダ)

不空成就如来

北尊

施無畏

金翅坐

黒色

羯磨部

 成所作智

 作用・

成所作智(じょうしょさち)   

必要な事を行う知恵

Amoghasiddhi

アモーガシッデイ

上表は大日如来篇と重複させてあります。 


九会
は1463尊の構成で以下の様に成る(会とは集合を意味する)、九会曼荼羅とも呼ばれ恵果達が独立した会を集合したとも言われる、正木晃氏に依れば金剛界のメインは成身会である、九会曼荼羅はインドやチベント存在しない中国製である、本来二律背反の両部を”両部不二”にオーソライズする為に道教で重要視すると言う数字を採用して胎蔵生曼荼羅と図上のバランスを取った。

1,
成身会―
金剛界の根幹を為す会、如来即ち金剛界五仏に菩薩三十二尊を金剛界三十二尊と呼び三十七尊で構成されている。
流派により根本会・羯磨会などとも呼ばれ一会のみで完成度の高い成身会で根本教理が説かれている、曼荼羅の根幹で中央の円を月輪(がちりん)と呼び五智如来、即ち大日如来を主尊として、 ・阿閦如来(調伏) ・宝生如来(宝を生み出す) ・無量寿如来(智慧・慈悲) ・不空成就如来(願いの成就)の「宝楼閣」があり、「五色界道」内に四波羅密菩薩 ・四親近(しんごん)菩薩 ・四供養菩薩を置き合計37尊となる ・周囲には賢劫の千佛 ・地、水、火、風の大神(しだいじん)・二十天を配置し賢劫の千佛を加え1061尊で構成される、但し初会金剛頂経には四大神・二十天の妃すなわち二十天后(てんこう)の記述は無い、東寺では不空成就如来と釈迦如来を同尊と解釈しているが経典上の接点は観られない。
月輪観に対して正木晃氏は基礎の基礎と言う、「自身は満月の如し、円明無垢にして、その光明法界に周辺す」と言う、これは不空の菩提心論を論拠としている。
賢劫Bhadrakalpika バドラカルパ)が描かれている大円輪の外側即ち五色界道の四隅の外の四供養菩薩とは金剛焼香菩薩・金剛()菩薩・金剛(とう)菩薩・金剛塗香(ずこう)菩薩があり、その中間に四摂事すなわち外金剛部院の内側に四門があり門衛の菩薩を四摂(ししょう)菩薩と言う、内訳は金剛(こう)菩薩・金剛索菩薩・金剛()菩薩・金剛(れい)菩薩が位置する。

「賢劫の千佛」(注5名称は概ね佛を称賛する美徳・パワーに関する言葉と言い、天台宗では佛名会(ぶつみょうえ)が行われている、合計1061尊で構成される。  
因みに四波羅密菩薩は女性尊で事実上は中尊の妃である、日本の四波羅密は羯磨衣を着て胸部を隠しているが、インドの後期密教を継承しているチベットの曼荼羅では乳房の見える透明な衣を着ている。 

成身会には賢劫の千仏があるが、「三千仏名経」には過去劫=荘厳劫、未来劫=星宿劫、現在劫=賢劫、があると言い其々に千仏がある、因みに賢劫とは吉兆な劫を意味する。

九会曼荼羅の内で賢劫の千仏四面に250尊に記述があるが、東南隅の250尊は、倶留孫仏(くるそんぶつ)  倶那含牟尼仏(くなごんむにぶつ) 迦葉仏(かしょうぶつ) 釈迦牟尼仏の四尊は如来形で描かれ弥勒菩薩以下は菩薩形で描かれている、因みにチベット仏教では賢劫の千仏の呼称はあるが覚者である上記四尊は描かれていない様である、曼荼羅の中の弥勒菩薩であるが、釈尊の次に登場する未来仏であるが曼荼羅ではその他大勢の一尊にすぎない。
成身会ぼ呼び名は *通達菩提心、*修菩提心、*成金剛心、*証金剛心、*仏身円満、
を五相成身観となる。

*仏教の興隆には釈尊の悟ったダルマ(法)を普遍化する必要があり、過去にも修行により同様の覚者と考えて過去七仏が信仰された、過去七仏は以下の様になる、この思想が継承された発展形が大乗仏教の過去、現在、未来の三世に現れた如来達であり、更に初期の大乗仏教の賢劫経~密教では賢劫の千仏に繋がる、賢劫の千仏の名称であるが金剛界曼荼羅儀軌・一切金剛出現のみであったが、チベット語訳、コータン語訳が見つかった。
*賢劫の千仏名経

拘留孫(くるそん)仏 迦葉仏 弥勒仏 明焔(みょうえん)仏 (みょう)()仏 (ぜん)宿(じゅく)仏 大臂(だいび)仏 宿(しゅく)(おう)仏 名相(みょうそう)仏 (えん)(けん)仏 日蔵(にちぞう)仏 拘那含牟(くなごんむ)()仏 釈迦牟尼仏 師子仏 牟尼仏 華子(けし)仏 導師仏 大力仏


2, 三昧耶会―成身会の尊形を曼荼羅の象徴的仏具(三昧耶形)で現した会で五仏、十六大菩薩、四波羅蜜菩薩、四摂菩薩、八供養菩薩、賢劫十六尊と外院二十天の73尊にて心の極地を形成される、梵語samayaの音訳である、本誓、約束、平等、除障、等の意味を持つ
三昧耶形に於いて五仏を挙げて於けば・大日如来が五鈷杵の上に鉄塔が画かれている、・阿閦(あしゅく)如来は五鈷杵の上に縦に五鈷杵が置かれる、・宝生如来は三弁宝珠 ・無量壽如来は五鈷杵の上に独鈷杵開蓮華 ・不空成就如来は五鈷杵の上に十字金剛杵が画かれている、因みに三昧耶は梵語samayaの音訳で誓約・仏の境地を意味する、合計73尊で構成される、因みに下図に著さない賢劫十六尊を挙げると弥勒菩薩  不空見菩薩 減悪趣菩薩 除憂闇菩薩 香象菩薩  大精進菩薩虚空蔵菩薩  智幢菩薩 無量光菩薩  月光菩薩  賢護菩薩 光網菩薩 金剛蔵菩薩  無尽慧菩薩  弁積菩薩  普賢菩薩となる
三昧
Samādhi サマーデイ)とは瞑想から精神集中が完成した状態を言い、初期大乗仏教に於いて重視された、般若経典に於いては「百八三昧」などが説かれている。  

3, 微細会―大日如来の金剛智すなわち智慧は微細に総てに行き渡ると言い、中央16尊以外の各像は三鈷杵・金剛杵の後背を持ち文字で理を表現される、覚りの内容表現を示した会であり73尊で構成される、この会は経典の「金剛智法曼荼羅広大儀軌分」から描かれている、合計73尊で構成

4, 供養会―成身会の尊形の活動、エネルギーで表現される、大日如来の智慧と功徳が降り注ぐとされ、五智如来以外は女形で描き和を表現される羯磨曼荼羅、覚りを羯磨で表現、合計73尊で構成

5, 四印会―四種曼荼羅を簡素化して五智仏以外は三昧耶形で表現される、大円鏡智・平等性智・妙観察智・成所作智の総合である、・金剛薩 ・金剛宝菩薩 ・金剛法菩薩 ・金剛業菩薩を含め三昧耶形13尊で構成、合計13尊で構成

6, 一印会― ・ 一尊曼荼羅 ・大印 ・大曼荼羅とも言われ大日如来1尊のみによって瞑想の極地を表現される、理趣(煩悩即菩提)の会得者は大日如来と同体を示す、因みに一印とは智拳印と同意である、但し初会金剛頂経の記述では大日如来ではなく金剛薩埵になっている、一説には金剛薩埵の存在場所として理趣会が設けられたとされる、因みに一尊曼荼羅とは覚り総てを観想するのではなく、一尊だけを対象に観法する事とされる、詳細は「現證三昧大儀軌分」に記述がある様だ。  

7, 理趣会―この会は初会金剛頂経には記述が無い、広義の解釈で金剛頂経の範疇に入る「七巻理趣経・大安楽不空三昧真実瑜伽(ゆが)」から取られたとされる、・金剛薩埵(さった)、を主尊に愛欲を認知し煩悩即菩提を表現されている、五秘密菩薩とも言い金剛薩埵を中心に・(よく)金剛菩薩・(そく)金剛菩薩・愛金剛菩薩・(まん)金剛菩薩とその妃(欲金剛女 触金剛女 愛金剛女 慢金剛女 下図理趣会四隅)で構成され、合計17尊で構成される、因みに理趣とは道理、教訓を意味する、合計17尊で構成される、因みに他の八会は初会金剛頂経から採られているが、理趣会は理趣経から採られている
仏教に於いては性欲を含む欲望(愛欲)は煩悩として否定的に扱われるが理趣経密教では清浄な菩薩的境地として肯定されている。 

8, 降三世会―金剛頂経の内「降三世曼拏羅広大儀軌分」から取られたとされる、他会との相違として1,成身会 の金剛薩埵の位置に憤怒調伏の降三世明王が配置されている、77尊で構成される、特徴は大日如来を除く四如来の臂は交錯させている、また外金剛部の四隅は女形で ・大威徳明王妃・軍荼利明王妃 ・降三世明王妃 ・不動明王妃の四尊が供養会及び最下段の三会より多く画かれている、但し教王護国寺の胎蔵曼荼羅の四尊は・弁才天・吉祥天・僑履(きょうり)陪羅嚩(ばいらば)の記述が観られる。(東寺蔵 国宝「伝真言院曼荼羅」の世界 石元泰博 平凡社) 合計73尊で構成。   (東輪五尊の内金剛薩埵に変わり降三世明王)  

9, 降三世三昧耶会―降三世会を持物で現した、煩悩除去、発菩提心の表現、73尊であるが、金剛頂経の内「憤怒秘密印曼拏羅広大儀軌分」によるもので大日如来は五鈷杵と宝塔ではなく菩薩形で指定されている、三昧耶とは大日如来の本誓(ほんぜい)・除障・警覚・平等の意味で仏と衆生が本来は平等であると言う、また三昧とは対象に対して観想に於いての精神統一を意味し梵語サマーデイ、samādhiの音訳で等持、定などと訳される、合計73尊で構成。 (東輪五尊の内金剛薩埵に変わり降三世明王) 。
三昧耶はインドではsamayaサマヤと言い・約束・誓約であるが佛教では・本誓・誓願・本願となる。


金剛頂経すなわち金剛界曼荼羅の一解釈に降三世三昧耶会から成身会に至る向上門と、成身会~降三世三昧耶会の向下門がある。

 説明: C:\Users\Owner\katada202\fig\kongou.jpg

 東西南北の各四菩薩なり、即ち東方にて金剛菩薩、金剛王、金剛愛、金剛喜、西方にて金剛法、金剛利、金剛因、金剛語、南方にて金剛宝、金剛光、金剛憧、金剛咲、北方にて金剛業、金剛護、金剛牙、金剛拳の諸菩薩を








上図は頭脳5で作図しました。

 

1、大日如来と四波羅蜜菩薩(14)  波羅蜜菩薩金剛  宝波羅蜜菩薩  法波羅蜜菩薩  羯磨波羅蜜菩薩    

2
、阿閦如来と四親近菩薩  金剛薩埵菩薩  金剛王菩薩  金剛愛菩薩  金剛喜菩薩   (親近菩薩とは如来の補佐官的意味を持つ)

3
、宝生如来と四親近菩薩  金剛宝菩薩  金剛光菩薩  金剛幢菩薩  金剛笑菩薩      

4
、無量寿如来と四親近菩薩  金剛法菩薩  金剛利菩薩  金剛因菩薩  金剛語菩薩       

5
、不空成就如来と四親近菩薩  金剛業菩薩  金剛護菩薩  金剛牙菩薩  金剛拳菩薩
      


注(1金剛杵(こんごうしょ)――杵(きね)の形をして端部に刃を付けたインド古来よりの武器で如何なる物でも打ち砕くシンボルを密教の法具とした。 独鈷杵・三鈷杵・五鈷杵・九鈷杵などが有る。
  
注(2) 三昧耶――梵語のsamaya・音訳でサンマヤ(真言宗)サマヤ(天台宗他)と呼ばれ諸仏の誓願を結ぶ印契や金剛杵など手に持って表現したもの、大日如来は五鈷杵の上部に塔・阿?如来は寝かせた五鈷杵の上部に五鈷杵を立てる・阿弥陀如来は五鈷杵の上部に独鈷開運華など、samは共にでayaは行くの、合成語と言われる、因みに金剛杵は密教に於いて金剛鈴と共に象徴的アイテムで行動を表す、また金剛鈴は智慧を象徴する。

注(3) 羯磨――梵語のkarman の音訳でカルマンと言い諸仏の行動を意味する。
  
注(4) 四大品の内金剛界曼荼羅には中央の成身会(羯磨会)から・三昧会・微細会・供養会・四印会・一印会までを金剛界品(六種)から引用される、理趣会は理趣経(六種)から取られ
降三世品から・降三世会(十種)・降三世羯磨会が引用されている

(5) 賢劫(けんごう)の千佛  
賢劫の千仏名経から十八尊程を挙げた、*拘留孫(くるそん)仏 *迦葉仏 *弥勒仏 *明焔(みょうえん)仏 *(みょう)()仏 *(ぜん)宿(じゅく)仏 *大臂(だいび)仏 *宿(しゅく)(おう) *名相(みょうそう) *(えん)(けん) *日蔵(にちぞう) *拘那含牟(くなごんむ)()仏 *釈迦牟尼仏 *師子仏 *牟尼仏 *華子(けし)仏 *導師仏 *大力仏までを挙げた。

今現在の劫を賢劫と言い過去の劫を荘厳劫・未来劫を星宿劫と呼ぶ、 梵語kalpa
の意訳で佛教の言う非常に長い期間を言う、盤石(ばんじゃく)劫の一劫とは四十立方里の岩に天人が百年に一度舞い降りて衣の袖で岩面を一度なでる、その岩が磨耗するまでを一劫と言う。また芥子劫も有り芥子の実を百年に一度大きな城都に一粒ずつ落とし満杯になって一劫とする数え方もある、また432千万年を一劫とする記述もある。   
荘厳劫 星宿劫(しょうごんこう せいしゅくごう)にも千佛がある、これに賢劫の千佛を加えて三世千佛と言う、因みに「三劫三千佛名経」を依経とした三幅画が存在する

注(6) 五智如来の揃う寺院に教王護国寺 ・安祥寺(京都) ・金剛三昧院 木造(和歌山) ・大日寺 木造(奈良) ・遍明院 木造(岡山)があり、異形に弘前の最勝院があり、真言宗寺院で占められるが京都市の臨済宗、建仁寺派で八坂の塔で著名な法観寺の五重塔には五智如来像が安置されている。

教王護国寺 ●大日如来坐像 木造漆箔 玉眼 284,0㎝ 江戸時代 阿閦如来 木造漆箔 136,7㎝ 宝生如来 明王漆箔 140,0㎝ 無量寿如来 木造漆箔  不空成就如来 木造漆箔 53,2㎝ 江戸時代
安祥寺(京都山科) ●坐像 木造漆箔 107,3cm161,2cm
大日寺(奈良県吉野)●木造漆箔52,cm~97,cm 藤原時代 
金剛三昧院
(高野山)●木造彩色 玉眼 51,cm82,cm 鎌倉時代 
遍明院
(岡山県邑久郡牛窓町)●木造漆箔 大日如来91,2cm 
阿閦如来51,8cm 宝生如来53,5cm 阿弥陀如来51,4cm 不空成就如来52,0cm

注(7 )  五相成身観とは唯識と空観を融合したとされ即身成仏する為の五段階の観想法である。 その内訳を示すと
1
通達本心(つうだつほんしん)」菩提心を己の根幹に持つ、真実の自性成就目指す   
2
修菩提心(しゅぼだいしん)」菩提心に清浄智を拡大、通達本心がより明確になる、   
3
成金剛心(じょうごんごうしん)」菩提心を堅固にする   
4
証金剛身(しょうこんごうしん)」佛性を会得、金剛心を本質に   
5
「佛身円満」一切如来の様に となる。

(8)金剛とは梵語の vajra(バジュラ)でヴエーダ聖典では雷を意味する、インドラ神の武器で金剛杵を言い金属の堅固・剛毅・強い、と解釈されている、大漢和字典には「五行の金の気、剛毅から剛」とあり仏教に取り入れられて帝釈天となる、金剛杵は雷を起す武器である、また東大寺に存在する著名な執金剛神の執金剛とは金剛杵を持つ者を意味する。

(9阿迦尼陀天(あかにだてん) 空諦を言う、三諦すなわち空諦、仮諦、中諦を言い、凡てが空であり自我・自性が無い。

(10)阿弥陀如来と無量寿如来を同尊として記述しているが異論もある。

(11)密教では印相・持物は単に形態ではなく教理そのものを示し重大な意味を持つ。

注(12色究竟(しきくきょう)  三界には欲界・色界・無色界がある、色とは肉体、物体及び物質を言い、欲界は地獄界、餓鬼界、畜生界、人界、六欲天までの五界を言う、色究竟は色界の最高位にあり欲望を降伏して清浄な世界を言うが情欲と色欲は残る、因みに無色界は更に上の覚り無の世界を表す、因みに三界超えた上方に仏界があり密教の仏達が住んでいる.

注(13 )  優れた都市文明を持ち佛教とヒンドュー教が混交するネワール密教での菩薩、賢劫十六尊は*東方 普賢菩薩、無尽慧菩薩、地蔵菩薩、虚空蔵菩薩、 *南方 虚空庫菩薩、寶手菩薩、海慧菩薩、金剛蔵菩薩、 *観自在菩薩、勢至菩薩、月光菩薩、光網菩薩、 *北方 無量光菩薩、辨積菩薩、除憂闇菩薩、除蓋障菩薩が配置されている。

注(14)、四波羅蜜菩薩 金剛界曼荼羅 中輪のなかで毘盧遮那仏の四方に配置されている四女尊を言う、尊名は「金剛波羅蜜」「宝波羅蜜」「法波羅蜜」「羯磨波羅蜜」であるが、インドやチベットに於いては十六大菩薩の真言門から「薩埵金剛女(sattvavajrī)」「宝金剛女(ratnavajrī」「法金剛女(dharnavajrī」「羯磨金剛女(karmavajrī」と呼ばれている、(両界曼荼羅の仏たち 田中公明 春秋社より)、十六大菩薩とは金剛界の四仏関連した菩薩


注  道慧さんのHP「法聖」に素晴らしい金剛界曼茶羅の写真付き解説ページが存在する。



拙サイトの曼荼羅関連編  曼荼羅  胎蔵界曼荼羅  羯磨曼荼羅   

      説明: C:\Users\Owner\katada202\kyoto\button1.gif        仏像案内    寺院案内


最終加筆日2004111日  2009217日九会他 2012年6月14日降三世会追加書き込み 2015年6月21日従因向果、従果向因 2016年10月2日 11月3日注13 2017年3月6日 4月25日 2018年5月9日 9月9日 10月7日 12月17日 2020年3月21日  2022年4月4日 6月6日 6月22日加筆   

inserted by FC2 system