金剛夜叉明王 

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密教の法具である金剛杵の威力を象徴化した明王である、梵語名 Vajrayaka(バジュラ、金剛・ヤクシャ、具体化)の意訳で「金剛のパワーを持つ夜叉」であり、調伏・息災のご利益を持ち金剛薬又の記述もある、Vajraとは梵語で金剛を意味する、yakaとはインド神話では人間の精気を吸い取り、人を喰う悪神とされている、また毘沙門天の眷属でもあり北方を守護する。
不空成就如来(注4)
―金剛利菩薩(金剛()―金剛夜叉明王すなわち教令輪身で明王の持つ憤怒身の具現とも言われる、五大明王の一尊で北方に配置されている、密教信仰者の心の障害を取り除く武器として金剛杵のパワーを見せつけるものである、因みに金剛杵は本来バラモンの最高神・帝釈天の武器で稲妻を起すとされる。 
毘沙門天の眷属との記述を観る、また鳥蒭沙摩(うすさま)明王と同体とも言われるが天台系が金剛夜叉明王にかわって鳥蒭沙摩明王を五大明王の一尊に加えている為で同体説には疑問が残る、五大明王の典拠となる「摂無礙経」では同じ北方尊の金剛夜叉明王と鳥蒭沙摩明王を交互に記述している為の混乱と言えよう、閑話休題、摂無礙経の正式名は「心陀羅尼経計一法中出無量義南方満願補陀落海会五部諸尊等弘誓力」と言い大変長い。 (「しょうむげだいひしんだらにきょうけいいっぽうちゅうしゅつむりょうぎなんぼうま」)、疑問点として 金剛界十六大菩薩の金剛牙菩薩と梵名Vajrayak
aが同じであり、「金剛峯楼閣一切瑜伽瑜衹経(こんごうぶろうかくいっさいゆがゆぎきょう)」にある金剛薩埵の威儀との関連が言われている連が言われる、閑話休題、チベットのkun rigの曼荼羅に於ける金剛牙菩薩は一尊のみ三眼で黒色であると言う。 
この明王の最大の特徴は正面の顔が憤怒で五眼であり下の二眼は嘘を見抜く目とされる、五眼像は明王では金剛夜叉明王に限られ、他にも例は観られない。
姿形が記述されているのは真言宗に於ける五部秘経の一経である「金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経(こんごうぶろうかくいっさいゆがゆぎきょう)」略して「瑜祗(ゆぎ)(注5では三面六臂で真手に五鈷鈴・五鈷杵をもち他の手には弓・矢・輪宝・剣を持つ。
単独での造像は殆ど無いが五大明王の一尊としての信仰は平安末期から広く行われた。



真言 オン バサラ ヤクシャ ウン 


注1, 不空成就如来を釈迦と同体する説も一部にはあるが経典にはなく無理がある。

2、金剛夜叉明王は三輪身(さんりんじん)の経令輪身の化身を務める、三輪身とは略称「摂無礙経」を源流とした哲学とか恵果の教え等諸説あるが、自性輪身(如来) 正法輪身(菩薩) 教令輪身(明王)を言い、不空成就如来-自性輪身  ・金剛利菩薩ー正法輪身 ・金剛夜叉明王ー教令輪身の姿で現される、摂無礙経とは正式には「摂無礙大悲心陀羅尼経計一法中出無量義南方満願補陀落海会五部諸尊等弘誓力方位及威儀形色執持三摩耶標幟曼荼羅儀軌」と長い、因みに三輪身は摂無礙経を典拠としている、摂無礙経は空海没後百年以上後に東大寺の奝然(938年~1016年)が請来した経典で、三輪身と言うタームを空海は使用していない。 (しょうむげだいひ しんだらにきょう けいいっぽう ちゅうしゅつむりょうぎ なんぽうまんがんふだらく かいえごぶ しょそんとうぐせい  りきほういいぎぎょうしをひつじさまやひょうしきまんだらぎき)
*春秋社、不動明王、下泉全暁著、に三輪身に対する異説がある真言宗の要点記とも言える「秘蔵記」に記述される事項に「三輪身」がある、三輪身とは、密教に於いて・如来(自性)・菩薩(正法)・明王(教令)の三種類の仏身観として分類したものである


3五大明王
明王の中で著名な五大明王信仰は
唐の玄宗皇帝から信任された不空による「仁王護国般若波羅密多経陀羅念誦儀軌」に密教化された護国思想や五大明王の教義が説かれ空海円珍により請来されたが尊名や図像に相違がある。
真言系では「仁王経五方諸尊図」を典拠としており上記の不動明王・降三世明王・軍荼利明王・大威徳明王・金剛夜叉明王の五尊を言い水牛に乗る大威徳明王以外は立像である、空海が大極殿に真言院を創設して五大明王の檀を築き後七日御修法の施行に成功し、天皇及び御衣に聖水を注ぐ最大級の修法にした事により平安時代以後には多大な信仰を集めた、後七日御修法は明治維新まで宮中で行われ、現在に於いても東寺で行われている事もあり平安時代以後には多大な信仰を集めた、また天台系では円珍が招来した「五菩薩五憤怒像」が使われ金剛夜叉明王に代わり鳥枢渋摩明王があてられ坐像である、また天台系では金剛夜叉明王に代わり鳥枢渋摩明王があてられる、五大明王全尊揃っているには東寺 ・大覚寺 ・醍醐寺 ・不退寺 ・宝山寺(奈良) ・定福寺(三重) ・瑞巌寺(宮城県松島)の七寺である但しインドには五大明王の信仰は見られず軍荼利明王、金剛夜叉明王、鳥枢沙摩明王の尊挌は見つかっていない。
国宝の絵画に於いては東寺・醍醐寺 ・高野山(有志八幡講十八箇院) ・水無瀬神社(大阪)に存在し、重要文化財も数点存在する、また軍荼利明王は真言系では右手に金剛鈎を持ち天台系は羂索を持つ、また大威徳明王に於いては画かれる位置が真言系は画面側から右上、天台系は左下に画かれている。
新しく絵画で岐阜県大野町の来振寺(きぶりじ)で絹本著色 不動明王 降三世明王 軍荼利明王 大威徳明王  鳥枢沙摩明王 (各140×88cm 平安時代)が20046月に国宝指定を受けた。 
(五大明王各編で重複させてあります) 

4、不空成就如来 梵語名Amoghasiddh、不空、すなわち必ず全て円満成就(成所作智)の徳を司るとされ緑色で蜜号を成就金剛・悉地金剛という。
一切の煩悩を滅す事を本願とする。胎蔵界曼荼羅の開敷華王如来と同じ本願とされる。
五智如来の北方に属し羯磨の働きをして金剛界曼茶羅の北方月輪の中尊で眷属に金剛業菩薩 ・金剛護菩薩 ・金剛牙菩薩 ・金剛拳菩薩を従える。

5、真言宗の五部秘経とは大日経・金剛頂経・蘇悉地(そしつじ)経(蘇悉地(そしつち)羯羅経(からきょう))・瑜祗経・要略念誦経と二論すなわち菩提心論・釈摩訶衍論(しゃくまかえんろん)を経典を言う。

五大明王が揃う主な寺院

 寺      名

  不動明王

  降三世明王

  軍荼利明王

 大威徳明王

 金剛夜叉明王

   備       考

 常福寺

  172,7cm

  178,8cm

  172,7cm

  150,6cm

  177,7cm

 木造彩色 平安時代

 瑞巌寺

   64,1cm

  92,1cm

  89,7cm

  67,7cm

  91,1cm

 同上

 醍醐寺

   86,3cm

  122,3cm

  125,8cm

   80,3cm

  116,7cm

 同上

○ 教王護国寺

  173,3cm

  173,6cm

  201,5cm

  100,9cm

  171,8cm

 同上   明円作

 大覚寺

   50,9cm

   67,5cm

   69,3cm

   58,1cm

   69,6cm

 同上

 不退寺

   85,7cm

  154,7cm

  157,0cm

   99,0cm

  150,5cm

 同上

 宝山寺(奈良)

   17、1cm

   18,cm

   17,cm

    11,5cm

   18,cm

 江戸時代 厨子入

常福寺は寺院に拠るサイトです。

延暦寺無動寺明王堂 木造 彩色 玉眼 不動67.9cm  36.7cm 矜羯羅 39.7cm   降三世 80.9cm 軍荼利  82.4cm 大威徳47.0cm 金剛夜叉 86.4cm 


絵画(五大尊像)

来振寺 絹本著色 掛幅装 五幅 各1400cm×880cm 不動 降三世 軍荼利 大威徳 鳥枢沙摩   平安時代 岐阜県大野町

教王護国寺  絹本著色 掛幅装 153,0cm×128,8cm  不動  軍荼利 大威徳 金剛夜叉 平安時代

醍醐寺 絹本著色 掛幅装 193,9cm×126,2cm  不動 降三世 軍荼利 大威徳 金剛夜叉 鎌倉時代
 



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最終加筆日2004年7月7日   20051123日 三輪身 2014年10月19日 2016年10月12日 2020年5月30日 2021年2月7日加筆

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