元興寺 極楽坊

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元興寺(がんごうじ)は日本に於いて最初に創建された本格寺院で平城京遷都の折に改名された寺である、元来の名称は飛鳥寺・法興寺であり南都七大寺(なんとしちだいじ)の一寺である、710年平城京に移転の後に元興寺と改名された、658年頃玄奘三蔵から法相を学んだ道昭を初めとして法相・三論の共学の寺であり本尊は弥勒佛であったと言う、現在の元興寺は真言宗、華厳宗、小塔院(真言宗)三分割されている、元興寺は奈良の覇権を握る興福寺に隣接して現在の奈良町一帯を含む広い境内と七堂伽藍を持ち威容を誇っていた、「元興寺伽藍縁起流記資財帳(がんごうじがらんえんぎならびにるきしざいちょう)」の抄本の例を挙げれば749年の墾田(こんでん)の権利では・東大寺が四千町歩に対して・大安寺・興福寺・薬師寺一千町歩の時代に・元興寺は二千町歩の権利を有していた、因みに法隆寺、四天王寺は五百町歩であった、しかし平安後期に政権の荒廃と歩調を合わせて没落する、これを僅かに死守したのが当時はサテライト即ち僧坊であった極楽坊と小塔院と、こん跡とも言える元興寺である。
東大寺の建立に関しても元興寺は開眼法要(かいげんほうよう)に於いて当寺の隆尊が華厳経を講じるなど大安寺と共に貢献している。
元興寺は現在 *真言律宗元興寺 *華厳宗元興寺 *真言律宗小塔院の三ケ寺に分かれており、奈良市芝新屋町12と奈良市中町11にある。  

日本に最初に取り入れられた教派である三論教学に於いても伝来ルートを異にする興福寺
(北寺)の「北寺伝」に対して南寺(元興寺)とも呼ばれた「南寺伝」として拮抗していたが高麗の慧観が元興寺に居住して教学を指導した為に元興寺の三論が著名である、因みに南都七大寺とは平安時代に京都すなわち北都からの呼称で奈良時代に於いては四大寺の一寺であった、藤原京すなわち都の四大寺とは奈良時代の「続日本記」に依れば寺格を示す順序から、大安寺・元興寺・興福寺・薬師寺を言い、後に東大寺を加え五大寺と言われた、但し平安時代の「続日本後記」では筆頭は東大寺となり・東大寺・新薬師寺・興福寺・元興寺・大安寺に変更されている。 

当時この奈良町周辺は現代人の視点から見れば東京西新宿の超高層ビル群を遥かに凌ぐ景観であったと想像される、現在ある興福寺の二塔に・四恩院の塔十三重塔、明和4年(1767)焼失)や春日大社の東西両塔が並び立ち、大安寺・元興寺・東大寺には両塔があり付近を圧巻していたと想像される、さらに塔の近くには七堂伽藍の(いらか)が並立していた、因みに春日大社では西塔は1116年、東塔は1140年の建立であるが平重衡による焼き討ちに遭う等、15世紀に落雷で消滅した処もあり大安寺・元興寺・東大寺を含めて以後再建されていない。
元興寺の国宝五重塔小塔は5.5mであるが、設計図を描かない時代の設計計画である、元興寺の塔は1859年焼失するが塔高は72.7mあり、現在日本で最も高い東寺54.8mを凌ぐ五重塔が存在していた、因みに同じ国宝海龍王寺の五重小塔は3間、2手先で塔高4.5m本瓦葺である。 
宗派
としての三論は興福寺の法相に敗れた事もあり都が京都に移されると元興寺は荒廃するが、平安末には極楽坊は智光の浄土曼荼羅
(浄土変相図・注1が庶民信仰につながり、わが国最古に属する官寺は平安後期から百日念仏講などが行われるようになり庶民の寺となる、智光曼荼羅とは楼閣と池の間に阿弥陀如来と観音、勢至菩薩・十八聖衆・舞楽菩薩・比丘尼を描いた比較的簡素な変相図である。
智光曼荼羅は当麻曼荼羅すなわち「観無量寿経疏」をベースに阿弥陀如来の極楽浄土の世界で、宝楼閣や宝池など極楽の情景を描き、観無量寿経の十三画や阿闍世王物語や極楽往生の種類すなわち九品往生などが描かれている、また楼閣と池の間に阿弥陀如来と観音、勢至菩薩、十八聖衆、舞楽菩薩、比丘尼を描いた青海曼荼羅と共に浄土三曼荼羅に数えられる。
わが国に於ける浄土信仰の先駆けとも言える三論の学僧・智光法師が自分の住む僧坊に浄土曼荼羅を置き礼拝していた場所で、他の僧たちの信仰を集めることに成り曼荼羅
(浄土変相図)のある僧坊を極楽坊と呼ぶようになった。
1411
年 元興寺から真言宗の寺として分離独立し東大寺の西南門を譲り受け正門とする,因みに1977年に極楽坊は元興寺となる。   
智光が礼拝した浄土変相図を智光曼荼羅と言い当麻曼荼羅・清海曼荼羅と共に浄土三曼荼羅とも呼ばれている、ちなみに
清海曼荼羅とは藤原時代に興福寺の僧清海が7日間の超昇寺大念仏行を行い極楽浄土を画いたものを言う。
極楽坊の場合本来は元興寺東室南階房十二房の遺構であるが、火災等で伽藍を失い十輪院や、中将姫に関連する奈良町の高林寺などと共にサテライトの僧坊としての一庵に過ぎなかった、荒廃が激しく「おばけでら」と揶揄されたが第2次世界大戦終了後に極楽坊大修理が行われ創建時に近い状態にまで復元され崩壊寸前と思惟された禅室・本堂などに、わが国最古の行基葺瓦が残り、飛鳥時代の材も使用されており奈良・鎌倉時代の様式が折衷された堂宇で1955年国宝に指定された。
元興寺本坊は1451年の土一揆で主要伽藍を失い、再興されたらしい金堂も1472年の台風で失う、現在は粗末な堂宇に十一面観音
(重文)を安置しており、国宝・薬師如来奈良国立博物館に寄託されている、今や元興寺本坊は極楽坊に在ると言える。
元興寺の出自は超一級の古刹であるが念仏聖も拠点とした庶民信仰の寺であり祭事に関しても盂蘭盆会(うらぼんえ)48日に全国の寺院で行われる釈尊の生誕を祝う灌仏会(かんぶつえ)が行われたのは元興寺が嚆矢とされている、ただし現在行われている誕生仏に甘茶を灌ぐのは黄檗宗が最初である、灌仏会の呼称は多様で仏生会・仏誕・降誕会・浴仏会・竜華会など著名な法会は当寺が嚆矢とされている。
西国薬師
を巡礼する霊場に薬師如来を本尊とする49寺が参加しており、元興寺は五番札所となっている。    



真言律宗
(元興寺本坊は華厳宗)    所在地 奈良市中院町11   TEL0742231377  (真言律宗は真言宗に分類しております)  


極楽坊の主な文化財
 (本坊を含む)         
 

名     称 

仕              様 

 時   代   

 禅   室 

 桁行4間 切妻造 本瓦葺き 

 鎌倉時代 

 本   坊 

 桁行6間 寄棟造 本瓦葺き 

 鎌倉時代 

 五重小塔 

 伝元興寺塔雛型 

 天平時代 

 薬師如来立像  

 木造彩色164,8p元興寺本坊(奈良国立博物館寄託)   

 平安時代 


●智光曼荼羅   彩色板絵  額装  217.0195.0p 鎌倉時代
●聖徳太子立像 木造彩色 119,7cm 鎌倉時代   

阿弥陀如来坐像 木造漆箔 160,5cm 藤原時代  

●弘法大師坐像 木造彩色 玉眼 81,8cm鎌倉時代   
●東門  四脚門 切妻造 本瓦葺 鎌倉時代 

十一面観音  立像 木造漆箔 190.3cm 鎌倉時代   華厳宗元興寺

●釈迦如来 立像 木造玉眼 78.7cm 119,7cm 鎌倉時代 奈良国立博物館所蔵

●阿弥陀如来 坐像 木造 彫眼漆箔 157.1cm  平安時代 真言律宗元興寺 

1、浄土曼荼羅(浄土変相図)  観無量寿経の世界を絵画で表したもので、阿弥陀如来の極楽浄土の世界、即ち宝楼閣や宝池など極楽の情景を描き、観無量寿経の十三画や阿闍世王物語などが描かれている、代表的な浄土変相図に当麻寺中宮寺等のものが上げられる。
通常は浄土曼荼羅と呼ばれるが正式には浄土変相図とされる、他に曼荼羅と呼ばれる浄土変相図の作品に、同じく極楽浄土を表しているが阿弥陀経をベースとした智光曼荼羅(当寺所有)と観無量寿経がベースの青海曼荼羅がある、但し浄土曼荼羅と同様観無量寿経を元にしている為酷似しているところが在る。
以上の当麻曼荼羅・智光曼荼羅・清海曼荼羅を浄土三曼荼羅とも呼ばれている、
清海曼荼羅とは藤原時代に興福寺の僧清海が7日間の超昇寺大念仏行を行い極楽浄土の変相図を画いたものを言う。
この他瑠璃光浄土を描く変相図に薬師八大菩薩(文殊菩薩・観音菩薩・勢至菩薩・弥勒菩薩・宝檀華菩薩・無尽意菩薩・薬王菩薩・薬師上菩薩)を描かれる事がある。  (本来の曼荼羅は曼荼羅剛界曼荼羅蔵界曼荼羅羯磨曼荼羅 を参照)

2、 南都七大寺  天皇の発願により造営された寺で全てが官給の為国の監督を受けた官寺で七堂伽藍(西大寺など例外も在る)を備えた大寺を言う、、大安寺(大官大寺)・薬師寺 ・・元興寺(法興寺)・興福寺法隆寺東大寺西大寺・の事を言いほとんどが六宗兼学の道場であった。八世紀後半に四天王寺唐招提寺東寺・西寺(現在は無い)などを加えて十五大寺と言う呼び方もされた。
七堂伽藍とは塔・講堂・回廊・経蔵・鐘楼・僧房・食堂を言うが七は悉くに通ずる。
   (大官大寺)


3、 行基葺瓦  本瓦葺の原型と考えられスパニッシュ瓦に類似している、日本に於ける最古の瓦葺で遺構としては極楽坊の一部分のみである、パイプを縦割り状態にして交互に葺いた様な形態をしている。  


4智光法師  生没年不詳 8世紀初頭の三論宗の僧で元興寺に於いて智蔵や行基に師事する、著作に「般若心経述義」 「浄名玄論略述」 「法華玄論略述」 「無量寿経論釈」がある。
日本往生極楽記に智光の浄土変相図(智光曼荼羅伝承が出てくる。
日本霊異記に依れば奈良仏教を代表する行基と智光両者の関係はあまり善くない様だ。



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               五重小塔(国寶)                  阿弥陀如来(重要文化財)


   

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