胎蔵界曼荼羅

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宇宙の原理すなわち法身仏である大日如来の胎内を具現した絵と言えよう、「胎蔵(たいぞう)()曼荼羅(まんだら)」正式名称は「大悲胎蔵生曼荼羅(だいひたいぞうしょうまんだら)」、大日経・正しくは”大毘盧遮那成佛神変加持経(だいびるしゃなじょうぶつじんべんかじきょう)”の「具縁品」「転字輪曼荼羅行品」「秘密曼荼羅品」等を典拠とし解釈を広げ三句すなわち菩提心・大悲・方便を覚りの道標をとして図形化し慈悲の完成を顕すと言う、咀嚼すれば胎蔵曼荼羅は大日経第二章に描き方を説明している、また空海の著作「十住心論」(空海注3参照)を視覚に訴えたものが胎蔵界曼荼羅と言える、但し経典とは尊数及び呼称に相違がある。
閑話休題、
初期密教から大日経へのパスpath)は直接でなく、チベット大蔵経に記述がある「金剛手灌頂タントラ」が言われる
金胎両部の曼荼羅の内で胎蔵生曼荼羅は金剛界の智に対して理を言う、理は「本有(ほんう)」とも言い、衆生には元来仏性があり仏性を煩悩が覆い隠して表れない状態と言う、インドに於いて胎蔵曼荼羅発展の触媒として「蕤呬耶(すきや)経」がある、すなわち中台八葉院の嚆矢的な曼荼羅である。     
胎蔵生曼荼羅の意味に付いては大日経に記述があり、金剛手秘密主の仏への質問の回答としてとして「諸仏を発生(はっしょう)するものが曼荼羅である。極無比味、無過上味である。限りない衆生を哀愍(あいみん)する為に、大悲胎蔵生曼荼羅と言う」、の回答がある(曼荼羅のみかた・小峰彌彦・大法輪閣)
大日経は理論編と実践編に分かれており理論編から作られたと言う、
正式名称は「大毘盧遮那成佛神変加持経」と言い、日本に於いては略して「大日経」と言われる、善無畏の訳は全七巻三十六章で構成されている、要するに空海の十住心論は大日経がベースに書かれている、閑話休題、日本に於いては大日如来‐--大日経が通常であるが経典の記述で大日如来は数箇所であり、多くは毘盧遮那と記述されている

津田真一氏に依れば空海の哲学思想の根幹は大日経にあると言う、善無畏三蔵は大日経住心品を「入真言門住心品」と訳しており、空海の代表作である十住心論は大日経住心品から由来したと言う、また日本教(注3)と言う造語の創設者の一人である山本七平氏をして十住心論は日本教の知られざるバイブルと言う
胎蔵界曼荼羅は大日経の一章「入真言門住心品」(理論の部)七章「供養念誦三昧耶法門真言行学処品」までの経典で、二章の「入曼荼羅具縁真言品」(実践の部)に説かれる十三部院の内四大護院を除く十二院を中心に解釈を広げて製作された。
十二院は三重の構造を為している、即ち下述の1、中台八葉院から5、持明院までを初重とし6、釈迦院から11、除蓋障院までを第二重として12、最下院を第三重としている、これを「三句の法門」と結び付けている、「大日経第一章入真言住心品の三句の法門」とは・菩提心・大悲の根本・究竟の方便を言う
大日経は三句すなわち菩提心を因とし、 大悲を根とし 方便を究竟となす、と説かれておりこれが胎蔵界曼荼羅は三句を図像化されたと言う。
胎蔵界曼荼羅の正式名称は「大悲胎蔵生曼荼羅」と言い、真言密教では本来の略称は胎蔵生(たいぞうしょう)曼荼羅若しくは胎蔵曼荼羅と呼ばれている、但し台密では安然以来胎蔵界と呼ばれている。
胎蔵生曼荼羅の中心である現等覚(げんとうかく)大日如来の姿形としては他の如来と違い頭に宝冠をかぶり、首には瓔珞(ようらく)・腕には臂釧(ひせん)・腕釧等を付け菩薩と同型をしている、大日如来の五智宝冠は胎蔵界曼荼羅の根幹と成る大日経二章の「入曼荼羅具縁真言品」すなわち具縁品に於いて記述され、髪髻(ほっけい)をもって冠と為しと記述があり初期の大日如来は附けていなかったとも言われる、また壇の東側に掲げられる事から東曼荼羅とも呼ばれる、因みに現等覚とは「明確に熟知」と解釈できる。    現等覚(注2)参照  

胎蔵界曼荼羅の範疇に入る曼荼羅を挙げる。
「阿闍梨所伝(しょでん)曼荼羅(大日経疏巻六)
摂大軌(しょうだいき)曼荼羅(摂大毘盧遮那成仏神変加持経入蓮華胎蔵海会悲生曼荼羅広大念誦儀軌供養方便会)
「広大軌曼荼羅
(大毘盧遮那広大儀軌)」「玄法寺軌曼荼羅(大毘盧遮那成仏神変加持経蓮華胎蔵悲生曼荼羅広大成就儀軌供養方便会)
「青龍寺軌曼荼羅
(大毘盧遮那成仏神変加持経蓮華胎蔵菩提幢幖(どうひょう)()普通真言蔵広大成就瑜伽)」等がある、
また大日経を典経としていないと思惟される曼荼羅もあり円珍請来の「胎蔵図像」「胎蔵旧図様」等がある。

曼荼羅は当初蓮華形や円形であったが中国に招来される過程に於いて現在の形態となる、源流は仏部
(中台八葉院)・蓮華部・金剛手部の三部で構成されていたとも言われ密教の興隆により、仏部が釈迦如来から大日如来に変更されたとされる、従って周囲に従う菩薩は顕教からの金剛手菩薩、観音菩薩弥勒菩薩普賢菩薩文殊菩薩である、これに地蔵院の地蔵菩薩と除蓋障院の除蓋障菩薩を加えて密教の八大菩薩が構成される。
曼荼羅
の胎蔵界曼荼羅編を参照願います。  

胎蔵曼荼羅は409 尊・12区画すなわち「十二大院」により構成されており以下のようになるが中台八葉院を中心に縦のラインで智慧を表現し横のラインに於いて慈悲を現しているとされる、下記に十二院の概略説明を記述するが経典と尊名の相違が場合は原図曼荼羅を優先した。  

1,
中台八葉院
―原図曼荼羅では深紅に塗られた八葉の蓮弁の中心、
花心台すなわち鬚蕊(しゅずい)描かれる主尊は法界定印(ほっかいじょういん)を結ぶ大日如来(毘盧遮那)とその役割及び智・徳を分担する下記の4如来で構成される、ここは「華厳経」の蓮華蔵世界の哲学を色濃く踏襲している、因みに大日経には蓮弁を白蓮華で描く様に記述がある(白蓮華上に覚りを示す阿字が輝く)が曼荼羅には深紅に画かれている。
・発心の徳と菩提心を起こさせる為に、宝物で作られた幢
(旗)印を持つ宝幢如来与願(よがん:)印、 寶幢とは宝で作られた旗印)  
・修行の徳と菩提の華を開き汚れなき開敷華王如来施無畏(せむい)印)
・菩提の徳と慈悲の光が無限の慈悲を示す無量寿如来禅定(ぜんじょう)印)
・涅槃すなわち覚りと執着を滅する法音を響かせて導く天鼓雷音如来降魔印(ごうま)の五如来及びその補佐役として普賢文殊観自在弥勒の四菩薩が五転を示し八葉の蓮弁背負って配置し、九尊で胎蔵界曼荼羅の中核をなし大日如来を取り巻く八尊の間に金剛杵を配置され、四隅に瓶(四瓶)が置かれ慈悲心を表し真実の覚りの姿を示す、因みに院を囲む五線は如来の菩提を放つ「五色界道」と言う、因みに五転とは発心・修行・菩提・涅槃・方便を言う、この中で無量寿如来と観音菩薩のペアーは密教以前からの組み合わせで頭上に化佛を付けるのは観音は阿弥陀から生み出された為との説がある、
初期の密教から大日経の成立まで紆余曲折があったが、「蕤呬耶(すきや)(きょう)」と言う密教経典に於いて胎蔵曼荼羅の中心である中大八葉院の源形が観られる様である


2,
遍智院
(佛心院)中台八葉院の上に位置している、遍智とは総てを知る智を意味する、貪・瞋・痴すなわち煩悩の闇を照らし魔を超越した主尊すなわち一切遍智印・諸仏心印とも言われる△三角火輪(大日経蔬では上下逆の記述▽)を描いた一切如来智印を中心に、向かって右から
・二十臂に杖や輪を持つ大安楽不空真実(だいあんらくふくうしんじつ)菩薩
・剣と宝珠を持つ(もつ)大勇猛(だいゆうみょう)菩薩
・左に諸仏を生み出した佛眼(ぶつげん)佛母(ぶつも)
七倶胝佛母(しちくていぶつも)准胝観音)の四菩薩を置き、小さくゾロアスター教から釈尊に帰依した三迦葉の内の二人、優桜頻(うるびら)迦葉と伽耶(がや)迦葉と一印を小さく配し智慧を作り出すパワーの象徴を表現する、合計7(一印六尊)で構成される、因みに中央の一切如来印(遍智印)の△印は男性を著し▽印は女性を著しチベットなどでは遍知印に使用されている、因みに残る三迦葉の一人は那提(なだい)迦葉と言う、但し釈尊の後継者である十大弟子の一人、摩訶迦葉は別人である、また七倶胝佛母(ひちぐていぶつも)とは七千万億の仏を生み出した佛母を意味する、余談ながら三迦葉は那提迦葉、優桜頻迦葉と伽耶迦葉であるが、総て別人である
因みに三角火輪は一切如来の大勤勇(だいごんゆう)すなわち智火を著し釈尊の正覚時の大勇猛心であると言い、大日経蔬には向きでありチベット仏教も同様である、参考までにチベット密教では大日経蔬に忠実に(逆三角形)描かれている。  
(sarvatathāgatajñānamahāmudrā サルヴァ・タターガタ・ジュニャーナ・マハームドゥラー)



3,
金剛手院ー金剛部院・薩
院とも言い、付法八祖の第二祖である金剛薩埵、を主尊として33尊を配し佛の智慧すなわち大智の徳を著わし、煩悩を打破する金剛杵や剣を手にしている、三列七段構成、21尊の理智的な相をした菩薩の内最下段右で障害の鎮魂を担当する憤怒(ふんぬ)月黶(がってん)菩薩は憤怒相である、金剛部院は経典に於ける秘密曼荼羅品とは尊名の相違は多くある為に原図曼荼羅を優先した、但し大日経、具縁品に記述があるのは *()金剛(こんごう) *忙莽(もうもう)(けい)菩薩 *金剛(こんごう)(しん)菩薩 *金剛商朅(しょうぎゃら)() *月黶(がつえん)の五尊のみである。
金剛薩埵(こんごうさつた)
(金剛手菩薩)は薩
院とも言われ密教創設者であり重要な院である、大日如来の大智の徳を示す、但し阿闍梨・恵果の系統の曼荼羅は温和に画かれているが経典に従うチベット等の諸尊は憤怒相に著されている。     
右上部から下部へ・発生金剛部菩薩 ・金剛鉤女菩薩(こんごうこうにょぼさつ) ・金剛手持金剛菩薩(こんごうしゅじこんごうぼさつ) ・金剛使者 金剛使者女 金剛薩埵
・金剛軍荼利菩薩 ・大力金剛菩薩 ・持金剛峰菩薩 ・金剛鈎女(こんごうこうじょ)菩薩 ・金剛使者 ・金剛鎖菩薩 ・孫婆菩薩(そんばぼさつ) ・憤怒月黶菩薩(ふんぬがってんぼさつ) ・虚空無垢持(こくうむくじ)金剛菩薩 ・憤怒()金剛菩薩 ・虚空無辺超越菩薩(こくうむへんちょうおつぼさつ) ・金剛()菩薩 ・金剛拳菩薩 ・離戯輪(りけろん)菩薩 ・金剛使者 ・持妙金剛菩薩 ・金剛王菩薩 ・大輪金剛菩薩となる。(曼荼羅により尊名に相違がある) 下図に使者・童子は明示してありません (金剛手院の尊像は仏像図典)
上記の内「大日経具縁品」於ける諸尊は・金剛手持金剛菩薩・持金剛峰菩薩・憤怒月黶菩薩・金剛鎖菩薩の5尊で多くは秘密曼荼羅品から引用された。

4,
蓮華部院―観音院とも言い大日如来の大悲救済示す、七尊のみ記述されている大日経と尊数に相違はあるが金剛手院と尊数を合わせる必要もある、(しょう)・(正)観音菩薩を主尊に蓮華を持ち慈悲を表した如意輪観音不空羂策観音37尊を配置するが「大日経具縁品」於ける諸尊の記述は・耶輸陀羅菩薩 ・大勢至菩薩 ・観音菩薩 ・毘倶胝菩薩(びぐちぼさつ) ・白処(びゃくしょ)観自在菩薩 ・馬頭観音菩薩(何耶掲利婆尊)の七尊みで「大日経」の他に「不空羂索経」などから引用されている、三列七段構成、21尊の観音菩薩の内最下段右の馬頭観音は慈悲相では無く憤怒相である。
蓮華部発生菩薩 ・大勢至菩薩 ・毘倶胝菩薩 ・奉教使者 聖観音菩薩 ・蓮華軍荼利 ・多羅菩薩 ・多羅使者 ・大明白身菩薩 ・蓮華部使者 ・馬頭観音菩薩 大随求菩薩 ・蓮華使者 ・
婆大吉祥菩薩 ・耶輸陀羅菩薩 ・使者 如意輪観音 ・宝供養使者 ・大吉祥大明菩薩 ・(まん)供養(くよう)使者 ・大吉祥明菩薩 ・蓮華部使者 寂留明菩薩(じゃくるみょうぼさつ) ・被葉衣菩薩(ひようえぼさつ) ・白身観自在菩薩 ・豊財菩薩 ・使者不空羂索菩薩 ・蓮華部使者 ・水吉祥菩薩 ・焼香供養使者 塗香(とうきょう)供養使者 ・大吉祥菩薩 ・白処観自在菩薩で構成される(曼荼羅により使者の数と尊名に相違がある) 
下図に使者・童子は明示してありません。
 
(蓮華部院の尊像は仏像図典)

5,
持明院
(五大院)― 中台八葉院の真下に位置し五大院とも呼ばれ大日経転字輪曼荼羅行品では大日如来の持明使者として不動明王等の5尊が記述されている、但し大日経には勝三世の記述があり降三世と同尊説の根拠とされる、具縁品には不動如来使者(acalanātha)、持金剛、勝三世(降三世 trailokyavijayaが記述されている、因みに持金剛とは歓喜佛とも言われる、後期密教に於ける本初、即ち根源宇宙の根源的な佛挌で金剛薩埵などと同挌とされる。 
梵語のvidyā
 ヴィドラー(知る)即ち智慧者を意味する、持明者即ちvidyārāja(ヴィドヤーラージャ)の王者(持明王)の集合所である。
真言・陀羅尼を有する者即ち智慧を持つ者を意味すると言われる、東寺の羯磨曼荼羅は仁王教からの引用とされるが持明院を参考にして空海の新たな解釈と考えたい、大日経・具縁品に記述が無いが、中央に梵経(ぼんきょう)を手にした女性尊で智恵を司る般若菩薩を配している、一説には毘盧遮那すなわち大日如来の妃を暗示している、般若経は「般若波羅蜜多」即ち空を説き、初期の大乗仏教の根幹経典であろう。
向かって右から不動(acalanātha)降三世大威徳・勝三世の憤怒形をした四明王の5尊を配し降伏のパワーを示す即ち自我者を憤怒降伏の姿で般若に導く、金剛手院の智慧と蓮華部院の慈悲の実働部隊でもある。
般若菩薩は梵語のprar
āプラジューニャでバーリ語の音訳でpaṅṅāバンニャーから来ている、漢訳を慧と言い、和訳では見識・真実の智慧とされ覚りの母胎である、また般若菩薩は般若心経の根幹となる菩薩である、空海は著書・般若心経秘鍵に於いて般若経典600巻の要諦説を否定し般若菩薩の真言とする、即ち「大般若菩薩の大心真言三摩地法門なり」と言う。 但し般若菩薩は大日経には記述がなく院の中央は阿闍梨が曼荼羅を観想する場所である。
日本に於ける衆生信仰の三大尊に・観音菩薩・地蔵菩薩と共に不動明王があるが、「不動如来使」「待明使者」であり尊挌として視た場合明王は菩薩よりランクは低いが胎蔵界曼荼羅すなわち大日経では重要尊として扱われている。

6,
虚空蔵院―大日如来の救いが虚空の如く広い範囲に及ぶとされ、虚空蔵菩薩を中央に配し両端に大きく、右に向かって16面に煩悩を断ち切る108臂の金剛蔵王菩薩、左に27面の千手千眼観音の両菩薩の他、十波羅蜜菩薩10尊、菩薩10尊、飛天族6尊の等29尊を配し、全ての徳を生み出す働きを示す、大日経に於いては虚空無垢菩薩・虚空慧菩薩・清浄慧菩薩・行慧菩薩・安慧菩薩のみが記述されている、曼荼羅には他に檀波羅蜜菩薩・戒波羅蜜菩薩・忍辱波羅蜜菩薩・精進波羅蜜菩薩・禅波羅蜜菩薩などが描かれる、因みに十波羅蜜菩薩とは六波羅蜜に・方便・願・力・智を加えた尊像である。

*金剛蔵王菩薩と金剛蔵王権現に付いて、胎蔵界曼荼羅の虚空蔵院、右に向かって16面に煩悩を断ち切る108臂の“金剛蔵王菩薩”が配置されている、また密教の儀軌には22面もある様子である、要するに金剛蔵王菩薩は多面多臂の菩薩である、一方像容の相違が著しい修験道の本尊である“蔵王権現”は単面2臂であり権現の原型が菩薩説には疑問が多い様である。


7,
釈迦院
―トラーナに囲まれた説法印の釈迦如来を中心に右に観自在菩薩・左に虚空蔵菩薩・左下に無能勝明王・右下に無能勝妃と実在したと言われる釈迦の十大弟子の内、摩訶迦葉(まかかしょう) ・舎利弗(しゃりほつ) ・須菩提(すぼだい) ・阿難(あなん)優波離(うばり)一切如来宝(いっさいにょらいほう)如来毫相菩薩(にょらいごうそうぼさつ) ・大転輪仏頂 ・無量音声仏頂 ・栴檀香辟支仏(せんだんこうびゃくしぶつ)等合計39尊を配し密教が顕教を吸収したと言う表現が為される、トラーナとは鳥居の源とされ門相 ・壇門などとも訳される、因みにチベットの胎蔵曼荼羅の釈迦院は19尊で構成されている。
原図曼荼羅では遍智院 ・金剛手院 ・蓮華部院の上部に位置するが大日経や大日経疏では最外院に配置されており曼荼羅に於ける釈迦如来の存在感は著しく低い。

8,
蘇悉地院
(スッ-シッデイ su-siddhi―功徳・成就の完成を意味し十一面観音菩薩・孔雀王母・不空供養菩薩・不空金剛菩薩・金剛軍荼利菩薩・金剛明王等8尊を配するが大日経に於いては蘇悉地院の書き込みは無く虚空蔵院に統括されている、ここでは当然観音院に描かれていると思惟できる十一面観音が蘇悉地院で初めて描かれている。
蘇悉地院が胎蔵曼荼羅に描かれている理由の一つに胎蔵界の図形として蘇悉地院(最外院を除く中央最下部)と対極の文殊院(最外院を除く中央最上部)とのバランスが言われている。因みに蘇悉地院は大日経に記述されていない

9,
文殊院―
釈迦院の上、最下院の下に位置し、文殊師利菩薩を中心に真実の姿を示し智慧を象徴される菩薩・妙吉祥菩薩・光網菩薩・宝冠菩薩・無垢光菩薩・月光菩薩・妙音菩薩等に使者衆を含めて25尊で形成される、文殊院には小さく観音菩薩普賢菩薩他2尊が描かれている、経典に於いては五尊のみ記述されている、文殊院も大日経具縁品には文殊菩薩を中心に・光網(こうもう)童子・髻設尼(けいしに)優婆(うば)髻設尼・質怛羅(しつたら)地慧(じえ)召請(ちょうしょう)の五奉教者(ぶぎょうしゃ)が記述され原図曼荼羅との差異が大きく観られる。 

10,
地蔵院
―功徳を表す宝珠幢と如意宝珠を持つ地蔵菩薩を主尊に9尊を配し全ての救済を表しているが、経典には宝印手菩薩・宝手菩薩・地蔵菩薩・宝処菩薩・持地菩薩・堅個意菩薩の六尊である。
原図曼荼羅に於いては地蔵菩薩は日本に見られる僧形ではなく菩薩形で宝珠幢・如意宝珠を手にしている、描かれる九尊の内訳は上から  除一切憂冥(じょいっさいうみょう)菩薩(除憂冥菩薩) 不空見(ふくうけん)菩薩   宝印手菩薩   宝光菩薩   地蔵菩薩  宝手菩薩  持地菩薩(堅意菩薩)  堅固深心(けんごじんしん)薩  除蓋障(じょがいしょう)菩薩日光菩薩  
である。

11
除蓋障院(じょがいしょういん)―除蓋障菩薩を主尊に九尊を配し金剛手院の智慧を具体化した動き、障害除去の働きを現すが経典とは尊名に相違がある。  
原図曼荼羅の九尊の内訳は上から 
悲愍(ひみん)慧菩薩  破悪(はあく)趣菩薩  施無畏菩薩  賢護菩薩  不思議慧(ふしぎえ)菩薩   慈発生菩薩(じほっしょうぼさつ)  慈愍菩薩  拆諸熱悩(しゃくしょねつのう)菩薩  不思議慧菩薩日光菩薩合計9尊であるが原図曼荼羅には主尊である除蓋障菩薩は存在しない、経典では障害除去の五項目すなわち五蓋(ごがい)を言い・貪欲蓋・瞋恚(しんい)蓋・昏眠(こんみん)蓋・掉悔(じょうけ)蓋・疑蓋(ぎがい)であるが諸説交錯している。


12外金剛部院(げこんごうぶいん)―最外院とも言い主尊は無く護法神達で占められる、曼荼羅の守護との説も有るが十界曼荼羅とも言われ、佛・菩薩・縁覚・声聞・天人・人・修羅・畜生・餓鬼・地獄・即ち宇宙全体を説き現したと見られる、ヒンズー教の神々、即ち持国天・閻魔天・阿修羅吉祥天等、東門の両脇に帝釈天・持国天・を中心に守門天・守門天女、南門に増長天・難陀竜王・鳥波難陀竜王・阿修羅王・阿修羅、西門に広目天・難陀竜王・対面天・跋難陀(ばつなんだ)竜王・難破天、北門に帝釈天・毘沙門天を中心に・倶肥羅・倶肥羅女・跋難陀竜王等々203尊が配置される、大日経・具縁品と大日経疏・原図曼荼羅とは尊名に相違がある、また最外院は須弥山の世界観を著した倶舎論の器世間品(きせけんぼん)が基調とも言われている。
その他に・帝釈天・持国天、増長天
四天王梵天婆藪仙など二十八部衆の一部等が置かれている。
因みに大日経具縁品には*東方 帝釈天、日天、大梵天、五浄居天。 *南方 羅刹王、火仙、閻魔王、七母、黒夜、死后。 *北方 なし(経疏には八大夜叉等) *西方 地神、弁財、毘紐(びちゅう)塞建奈(そくけんな)、風神、月天、難陀龍王、縛魯拏(ばろだ)龍王 毘沙門天などの指示がある 


胎蔵曼荼羅の正式名”大悲胎蔵生曼荼羅”に関して「諸尊に三種の身あり、所謂 ・字と・印と・形像なり」 とある、すなわち・種子・三昧耶形・尊形である。
大日経すなわち胎蔵界曼荼羅の一解釈に三句の法門と言う概念にあると言われる。三句の法門とは「菩提心を因」と、「大悲を根」と、「方便を究竟(くきょう)」とする事を言う。
「菩提心を因となし、非を根本となし、方便を究竟となす」。



1、阿弥陀如来と無量寿如来を同尊として記述しているが異論もある。

2現等覚(げんとうかく) 大日如来の教えで苦悩のない静寂で真実の智慧を言い、a金剛の様な覚、b利益平等の覚、c法の平等の覚、d総て平等の現等覚と言う。


注3、日本教 山本七平氏と米国人のジョセフ・ローラ・ユダヤ人のミーシャ・ホーレンスキー三人共同のイザヤ・ベンダソンと言うペンネームで発表された「日本人とユダヤ人」の中で使われた熟語。


別図参照 胎蔵界曼荼羅の主な尊像 1・大日如来毘盧舎那仏)2・宝幢(ほうどう)如来 3・開敷華王(かいふけおう)如来 4・無量寿如来(阿弥陀) 5・天鼓雷音(てんくらいおん)如来 6・普賢菩薩 7・文殊菩薩 8・観自在菩薩 9・弥勒菩薩 10・釈迦如来 11・文殊菩薩 12・大安楽不空真実菩薩 13・大勇猛菩薩 14・一切如来印(遍智印)15・佛眼佛母 16・准胝(じゅんてい)佛母(ぶつも) 17・不動明王 18・降三世(ごうざんせ)明王 19・般若菩薩 20・大威徳明王 21・勝三世明王 22・虚空蔵菩薩 23・金剛蔵王菩薩 24・千手観音菩薩 25・金剛薩菩薩 26・聖観音菩薩 27・如意輪観音菩薩 28・不空羂索観音菩薩

図は頭脳5で作図しました。

蓮華部院と金剛手院の尊名

蓮華部院
(観音院)         右に中台八葉院 遍知院 持明院      
            参考   以下の蓮華部・金剛手院は東京都練馬区南田中4-15-24  慈雲山 曼荼羅寺 観蔵院  曼荼羅図典(大法輪閣)参照     
 

被葉衣菩薩  

大随求菩薩 

蓮華部発生菩薩 

白身観自在菩薩 

薩埵婆大吉祥菩薩 

大勢至菩薩 

豊財菩薩 

耶輸陀羅菩薩 

毘倶胝菩薩 

不空羅索観音菩薩 

如意輪菩薩 

観音菩薩 

水吉祥菩薩 

大吉祥大明菩薩 

多羅菩薩 

大吉祥変菩薩 

大吉祥明菩薩 

大明白身菩薩 

白吉祥変菩薩 

寂留明菩薩 

馬頭観音菩薩 

金剛手院              左に中大八葉院 遍知院 持明院               

発生金剛部(はっしょうこんごうぶ)菩薩 

虚空無垢持金剛菩薩 

金剛輪持菩薩 

金剛鈎女(こうにょ)菩薩 

金剛牢持金剛菩薩 

金剛説菩薩 

金剛手持金剛菩薩 

忿怒持金剛菩薩 

懌悦持金剛(ちゃくえつじこんごう)菩薩 

金剛薩

虚空無辺超越菩薩 

金剛牙菩薩 

持金剛峰菩薩 

金剛鎖菩薩 

離戯論菩薩(りけろんぼさつ) 

金剛拳菩薩 

金剛持菩薩 

持妙金剛菩薩 

忿怒月黶(ふんぬがってん)金剛菩薩 

持金剛利菩薩 

大輪金剛菩薩 

除蓋障院 上から  悲愍(ひみん)慧菩薩  破悪趣菩薩  施無畏菩薩  賢護菩薩  除蓋障菩薩   慈発生菩薩  慈愍菩薩  拆諸熱悩(しゃくしょねつのう)菩薩  不思議慧菩薩(日光菩薩 

地蔵院 上から  除一切憂冥(うみょう)菩薩(除憂冥菩薩) 不空見菩薩   宝印手菩薩   宝光菩薩   地蔵菩薩  宝手菩薩  持地菩薩(堅意菩薩)  堅固深心(けんごじんしん)菩薩  日光菩薩(除蓋障菩薩)   



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