梵語名Deva(デーヴァ)と言い、古代よりインドではasura(アスラ)と共に神を意味する名称である、漢訳では音訳で「
超弩級なパワーを持つ天には二種類がある「権類の天」「実類の天」(注5)があり権類の天は如来・菩薩から変化した毘沙門天などの天を言う、実類天は梵天・帝釈天に代表される、天の歴史はBC二千年来の歴史を擁し、バラモン・ヒンズーなど古代インドから伝承される天に分類される、ほとんどの天は梵すなわち清浄で光り輝き、仏教の天の内顕教では仏法を守護する護法神や娑婆を守る護世神の尊格を与えられるが、顕教尊は量的には究めて少数派である、密教が秘仏修法の本尊となり土着信仰より優位性を示そうとした説と、バラモン・ヒンズーとの摩擦を回避する為に土着の諸尊を佛教に吸収した姿として採用された。
天部像は密教化による影響は大きく、仏像の守護を四天王から十二天が担う様になる、十二天とは *帝釈天 *梵天、*地天、*日天、 *月天、*閻魔天、 *水天、 *毘沙門天 *火天、*羅刹天 *風天、:*大自在天等を言う。
天部の衣装には中国の貴人姿の「
天部の諸尊は明王と同じく佛教哲学から生み出された神ではなく、外道達(注3)から仏法に取り込んだ尊格で多くは密教尊である、すなわち天のほとんどはインドの土着信仰からシェア(share)された像である、ヴエーダ聖典に登場しインド神話から発生した土着信仰に於ける天界の住人を言う、天とは場所を言うのではなく、そこの居住者を指すのが本来とされ天界と訳すべきと言う説がある。
範囲として三界・二十八天を含む全ての住人が含まれる、仏像の区分では如来・菩薩・明王に次ぐ像を言う、また天井界の 神々を言い輪廻転生(saṃsāraサンサーラ)
古代インドの神々で、いわゆる異教徒であった天部の諸尊は仏教界に於いて排斥するのではなく、釈迦の説法を聞き守護神として仏教に取り込まれる形態で作り出された、薔薇門から取り込んだ当初は梵天と帝釈天に概ね限定されていたが、密教の起こりと共にその尊数は著しく増加する。
人間が修行する事によって覚ると言う仏教の教理から諸天の発生を理解する事は困難である、これらはバラモンの流れに乗るヒンズー教や土着信仰の拡大を阻止する為、又はインドの民衆に抵抗なく理解させる為に仏教側に取り込んだと考えるのが適当かと思惟される。
天も明王と同じく祈祷修法に多く登場しており秘仏とされる像が多い、特に・毘沙門天・弁才天・大黒天・荼枳尼天・聖天等が顕著である。
インド人の信仰の中に根付く天の存在は古くは紀元前二千年頃にも及ぶ、姿形的には半人半獣や多面多臂バラモン・ヒンズーの様式を継承しているが貴婦人や特徴をデフォルメされた人間の姿も多く、自然現象のパワーを誇張して偶像視されたものが多い。
この異教の神を守護神として扱う事は原始仏教時代からあり日本でも飛鳥時代には戦勝の守護神として四天王などが信仰された、ヒンズー教から採用した明王、天が末尾に附くおおかたの尊格は憤怒相である、これに付いてドイツのルター派の宗教哲学者ルードルフ・オットー(Rudolf Otto,1869~1937年)は聖なる者と偉大な威力を所持する者について述べている様だ。
仏法を守る八部衆・須弥山を守る四天王・薬師如来を守る十二神将・千手観音を守る二十八部衆・ヒンズーの最高神の梵天・帝釈天・さらに吉祥天・弁財天・大黒天・韋駄天・金剛力士などが有名であるが、その数は諸経典に依ればガンジス川の砂の数ほどあり閻魔天・夜叉・竜王・乾闥婆・鬼子母神、摩利支天等々の名称が上げられる、特筆すべきは吉祥天や弁才天の様にヒンズー教の女神達も仏教では天部に配置されている。
特異な例として日本古来から馴染まれている稲荷と同尊とも言われる荼枳尼天がある、異端として弾圧され江戸時代に断絶した真言宗の中で
マーリーチーと言う女天を挙げる、
本来これら諸天はグループで警備の役割を持つものであるが毘沙門天・帝釈天・弁才天・大黒天など一部には単独信仰が生まれた例もある、またグループでは全方位を守護する十二天(注2)・十王信仰などがある。
姿形としては武装する武装天部と貴人姿の貴顕天部があるが、帝釈天などは衣の下に鎧を着用する場合もある、顕教・密教でも統一された形態は無くかなり自由に制作されており群像的な役割をしている。
像造の他には胎蔵界曼荼羅の外金剛部院(最外院)金剛界曼茶羅では二十天等に群像として多く存在する。
前述の様に天は輪廻転生する六道の中にありランクも重層的と言える、上層部の天人には性別は存在せず、男女が別れるのは下層部の天人に限られる様である、また衰えや寿命がある、これを「天人五衰」と言う、天人五衰には大衰相と小衰相があり大衰相を挙げると以下の如くになる、因みに天人の寿命は4000年とされるが、天界の(須弥山)1日は娑婆の400倍と言われる、但し1年は360日で計算される。
大衰相とは経典により相違があるが
1、頭上
2、
3、
4、身体
5、
因みに小衰相は声が悪くなる・体躯に輝きが失せる・水浴の後に水が付着する・執着する様になる・瞬きが多くなる、等が言われている。
注1、須弥山 梵語名 Sumeru(スメール)で音訳を充てた
注2、十二天 護法善神や金剛界曼荼羅の様に・八方守護の帝釈天、火天、焔摩天、羅刹天、水天、風天、毘沙門天、伊舎那天の八方天・上下の梵天、地天・天空の日天、月天を言う。
注3、仏教から見た異教徒達で著名な外道に六師外道がある、 BC五世紀以前にガンジス河流域付近で活動した六人の自由思想家たちでバラモンを否定する代表的な六人でジャイナ教の祖や、舎利弗・目犍連が釈迦に帰依する以前に所属したサンジャ・ベーラッテイブッダの提唱する教団等を言う。
仏教側から仏教徒以外を異端として外道と呼ばれ、仏教徒を内道と呼称された。
· Ajita Kesakambalin (アジタ ケーサカンバリン、阿耆多翅舎欽婆羅) 唯物論、快楽主義、人は地水火風の四元素で構成されると言う唯物論者。
· Pakudha Kaccayana (パクダ カッチャーナ、迦羅鳩駄迦旃延) -(地水火風苦楽及び命の七要素説。
· Purana Kassapa (プーラナ カサッツパ、不蘭那(不蘭)迦葉) 善も悪のないと言う道徳否定論者。
· Makkhali Gosala (マッカリ ゴーサーラ、末迦梨瞿舎利) 裸形托鉢教団、運命決定論者、無因無縁論。
· Sanjaya Belatthiputta (サンジャヤ ベーラッテーブッダ刪闍耶毘羅胝子) 不可知論、懐疑論者。
· Nigantha Nataputta (ニガンダ ナータブッダ尼乾陀若提子、本名ヴァルダマーナ) ジャイナ教の祖 相対論者、霊魂論、苦行主義。
注4、瓜生中氏の「仏像がよくわかる本(PHP文庫)」に依れば天とはDeva デーヴァの音訳で漢訳で提婆と記述される超人的な神との記述があるが、十大弟子の一人で阿難陀の兄である提婆達多(Devadatta)と混同される為に梵語のsvarga(スヴァルガ)が適当かも知れない。
注5、“権類の天“は如来、菩薩から出世した毘沙門天等で、“実類の天“はバラモン・ヒンズーから採用された帝釈天や梵天等が相当する、これ等はやや強引に後発の密教が佛教に吸収した形態を著したものである。
注6 ヒンズーの三神(Trimurti)とは
*ヴィシュヌ神(存続神 Viṣṇu)世界を維持・発展させる。
*シヴァ神(破壊神 Śiva)世界を破壊し、再生する、日本では大黒天に相当する。
*ブラフマー(創造神 brahma)世界の創造者、最高神だが日本以外では人気がない、日本では弁才天にあたる。
カテゴリー外の天像
●閻魔天 醍醐寺 木造彩色 93,4cm 平安時代
●閻魔天 初江王 倶生神 円応寺 木造彩色玉眼 99,5~190.3cm 鎌倉時代
天像 岩手・毘沙門堂 福島・勝定寺 京都・月輪寺 奈良・唐招提寺 東京国立博物館 などに存在する。
最終加筆日2004年6月30日 12月9日 2009年1月23日天人五衰 2012年6月5日十二天 2015年7月26日 天人の男女性別 2017年4月12日 2020年5月3日 12月11日 2022年4月3日 7月14日 10月2日
加筆