孔雀明王は梵語名の偉大な孔雀Mahāmayūrividyārājñi(マハ―マユリー)の訳で、当初インドに於いては明王でありながら稀有な女神との記述も観られる。
明王であるが憤怒相ではなく音訳として素晴らしい孔雀、
その他依経として730年に西崇福寺(唐)の智昇が編纂した経典目録である「
これ等の経典は原始仏教の影響を色濃く受けており
下述するが、六典程が請来されており鳩摩羅什や義浄訳が4世紀前半に中国に伝わったが、大日経系の儀軌で中国に於いて作られ空海が請来した「青竜寺儀軌」「玄法寺儀軌(胎蔵儀軌)」や八世紀に釈尊が真言を説いたとされる・「仏母大孔雀明王経」「孔雀王呪経」(マハ―マユリー ヴィドウヤーラージュニー Mahāmayūr ividyārājñi)等の類本が用いられている、一説にはインドでは孔雀明王が最初に登場したと言い、その典拠としては五世紀頃の「孔雀明王経」であるとの説が有力である。
インドに於いて中世には女神すなわち明妃から女性尊が多く誕生している内での当初は登場し明妃とも呼ばれた明王尊である、本来女性尊であるが准胝観音等と共に漢訳された時点で性別は消滅し男性化する、しかし明王のなかで憤怒相でないのは発祥が明妃すなわち女性尊である事に由来している、因みに憤怒相でない明王は孔雀明王の他には慈悲相の六字明王があるが陰陽道との関連が指摘されている、正木晃氏は女尊である孔雀明王を男尊化したのは日本の真言密教であると言う。
不空訳による「
漢訳経典は不空訳・「仏母大孔雀明王」の他に、僧伽婆羅訳・「孔雀王呪経」、義浄訳・「仏説大孔雀呪王経」、失訳・「大金色孔雀王呪経」「仏説大金色孔雀王呪経」、鳩摩羅什訳・「孔雀王呪経」がある、この内で鳩摩羅什の訳は創作に近いと言われる。
孔雀はヒンズー教の女性神(偉大な孔雀)信仰を佛教に取り入れられた、三毒すなわち
仏母大孔雀明王経に拠れば「マハーマユリー仏母大陀羅尼」を唱えれば諸々の毒・厄難・畏怖・の除去及び延命息災・安産・天変等の安全祈願,すなわち悉く皆が解脱して寿命百歳にして百秋を見て、明力成就し所求の願を満たす、等があるとされる。
経典としては初期密教の代表的経典で、定かではないが役小角が呪に用いたとされる「大孔雀呪王経」や「仏母孔雀明王経」があり、孔雀明王を本尊としたとした密教呪法が「孔雀経法」とされる、孔雀経法による祈願は真言密教に於いては鎮護国家を願う大法であり、孔雀明王の重要性が強調されるが禁裏を始めとする貴族社会と一部修験者の信仰を受けたげ衆生に信仰を受ける事は無かった。
孔雀明王像は本生譚(注1)即ちジャータカにも描かれており、キリスト教やイスラムの宗教美術にも強い影響力を与えたとされる。
この信仰はインドに於いては佛教成立以前から毒蛇から身を守る為にパリッタに利用されていた、因みにパリッタ(paritta)とはTheravāda(上座部)に於いて日常的に唱えられている呪文である。
日本に於いては密教経典の請来と共に盛んになるが、明王の中では最初に請来され奈良時代頃からの信仰がある。
日本霊異記には「孔雀王の呪法」が存在し創建当初の西大寺金堂に安置されていた記録もある、前述の日本霊異記には役行者(役小角)のが孔雀明王の呪法を習得したと言う伝承記述がある、役行者の法系にある道鏡の信仰も篤く西大寺資材帳には如意輪観音と共に孝謙天皇と共に建立した西大寺に安置されたとされている、この祈祷・呪術は山岳信仰の修験者の大敵である蝮等の被害回避に用いており空海もこれを取り入れ真言宗の重要な呪術の一つに数えられた、この祈祷は仁和寺の得意とする呪法で、ここには南宋時代の作で国宝の孔雀明王像がある、御室派、広沢流に於いても行われた様であり、また天台宗に於いても用いられた。
姿形としては前述の「大孔雀明王画像壇場儀軌」に拠れば坐像に限られている、火焔を背負う明王が多い中で孔雀明王は孔雀の羽根を背にして居る、孔雀の上に乗り一面四臂、右手には
五護陀羅尼(pañcarakṣā)と言う五種類の陀羅尼経典を集成した女尊グループがある、*孔雀明王、*大髄求(マハープラテーサラー daizuiku)、*大護明(MahāmantrAnus マハーマントラーヌサーリニー)、*降大千界(マハーサーハスラプラマルダニーMahāmantranusarini )、*大寒林Mahasitavati (マハーシータヴァテー)、の五尊であるが、中心には大髄求が挙げられている。
宗教には戒律や聖書等々の規制を優しく包み込む母性愛的な思想がある、カトリック等ではマリア崇拝に相当する中国や日本では女尊信仰は男性である観音菩薩を女性化して信仰されているが、インド等では女神信仰が篤く多羅菩薩や孔雀明王も含まれている密教思想の五護陀羅尼(注4)信仰が篤い。
明王と言えば憤怒相であるが孔雀明王と六字明王は慈悲相である、六字明王は「六字大明王陀羅尼経」「仏説大乗荘厳宝王経」に関連する修法に登場するが出自は定かでなく陰陽道との混血尊の可能性が大きい。
下記・東京国立博物館の画像は空海の請来とは系統とは異なる系列に属する様で、醍醐寺の観賢に関連があり、上部に月輪と種子が画かれており大日如来のシンボル的な意味を持つと言う、この作品と共に「大孔雀明王画像壇場儀軌」に忠実な彫刻像としては快慶の手になる金剛峯寺が著名であるが刻像は数が少ない。
重文指定はないが、正暦寺(奈良市菩提山町157)に檜の一木造で玉眼を
真言 オン マユラ キランデイ ソワカ
孔雀明王 〇印国宝 ●印国指定重文
東京国立博物館所蔵
〇東京国立博物館
〇仁和寺
●法隆寺
●醍醐寺密教図像内
●安楽壽院 絹本着色孔雀明王 京都市伏見区竹田中内畑町74
●智積院
●松尾寺
●サンリツ服部美術館
●金剛峯寺 木造彩色 玉眼 像高 78,8cm 全体高 235,2cm 鎌倉時代 快慶作
龍光寺 木造 像高240cm 四国霊場41番札所 2005年ふるさと郵便切手に採用 愛媛県宇和島市三間町戸雁173
正暦寺 木造
注1、
547話と数は多いが、場所は祇園精舎、舞台はパーラーナシーの都、内容はガーター(梵語・gāthā)と呼ばれる
日本に於いては玉虫厨子の両面に描かれている、a捨身飼虎図・飢えた虎の親子を救う為に前世の釈迦(摩訶薩た王子)が崖から飛び込んで虎の餌になる。b施身聞偈図・釈迦の修行中羅刹に変身した帝釈天が「諸行無常」と囁く、釈迦は羅刹に続偈の教授を願い出たところ「汝を食わせれば教える」と言う、承知した釈迦は聞いた偈(仏の言葉)を岩に刻んで身を投げたところ羅刹は帝釈天に戻って釈迦を空中で受け止めた、また象本生も著名である、水と食料を求めて森をさまよう難民達に象の屍骸がある水場を教え自分は先回りして、難民の食糧としての象の屍骸となる物語である。
また玉虫厨子には他に天王図・菩薩図・霊鷲山・草木図等が描かれている、他に天王図・菩薩図・霊鷲山・草木図等が描かれている。また玉虫厨子は飛鳥寺代の建築様式を正確に再現されており、太子一族の怨霊を鎮める願いを込めて制作された飛鳥芸術を代表する文化財である。
注3、真言八祖 「付法八祖」(金剛界系)と「伝持八祖」(胎蔵系)が言われている。
八祖の本流として空海の広付法伝から金剛界系の「付法八祖」があり、大日如来から密教の説法を受けた金剛薩埵が伝えたと言う伝承があり大日如来・金剛薩埵
・龍猛・龍智・金剛智・不空・恵果・空海が言われる。 「秘密曼荼羅教付法伝」(広付法伝)
またこれも空海の「略付法伝」からとされ胎蔵系の「伝持八祖」は実在しない大日如来と金剛薩たを省き、善無畏・一行を加えている、伝持八祖の制定は御室派が嚆矢で金剛頂経を意識した付法八祖に対して大日経と恵果の位置付けを加味して設けられた、善無畏・一行を加えた事は付法八祖の場合は金剛頂系を表しており中期密教すなわち金胎不二の観点から疑問を生じており大日経系を加えたと言われている。
「伝持八祖」の名前と持物は通常諸説あるが 「龍猛」(龍樹)三鈷杵 ・「竜智」梵経 ・「金剛智」念珠 ・「不空」印形 ・「善無畏」印形 ・「一行」印形 ・「恵果」童子・「空海」五鈷杵とされ真言祖師とも言う、また「住持の八祖」とも言われる。
中でも龍樹(竜猛)は大乗仏教の祖であり中国八宗の祖・日本八宗の祖とされている、著作に中論・一二門論・大智度論(注3)大乗二〇頌論などがある、ちなみに八祖の宗派は法相宗・抑舎宗 ・三論宗 ・成実宗 ・律宗・華厳宗・天台宗・真言宗を言う。
真言八祖像は四国八十八所の26番札所の「金剛頂寺」に於いて重文指定を受けて存在している、木造板彫りで彩色が施されている、ちなみに金剛頂寺は空海の創建。
注4、
①大髄求(Mahāpratisarā (マハープラテイサラー) 「宝思惟訳 髄求即得大自在陀羅尼神呪経」「不空訳 普遍光明清浄熾盛如意宝宝印心無能勝大明王大髄求陀羅尼経」他。
②大護明 (MahAmantrAnus マハーマントラーヌサーリニー) 「法天訳 仏説大護明大陀羅尼経」
③降大千界 (Mahamantranusarini マハーサーハスラプラマルダニー) 「施護訳 仏説守護大千国土経」
④大寒林 (MahACItavatI マハーシータヴァテイー) 「法天訳 大寒林聖難拏陀羅尼経」
⑤大孔雀 (Mahāmayūrividyārājñi マハーマユリー) 。
以上を挙げる事が出来る。 (仏教の女神たち 森雅秀 春秋社より)
インドやネパール等の密教には「
最終加筆日2004年7月12日 2006年4月8日 7月10日文化庁の孔雀明王 2009年1月22日 2011年12月8日女尊明妃 2013年6月1日注2 2013年8月4日役小角リンク 2017年4月7日注3他 11月2日 11月29日 2018年5月11日 2018年6月9日 10月14日 2020年1月15日 3月14日 5月16日 6月10日 2021年10月15日 10月27日 2022年3月26日 4月13日 2023年11月1日 加筆