道教

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道教とは「(タオ)の教え」(道徳経)と言われている、中国古来からの土着信仰の論理・思考が発展した宗派で、儒教と共に中国で興った独自の宗教である、道教の二大思想家は老子と荘子を挙げる神仙説も著名である、優先する思弁的(しべんてき)哲学、神仙(しんせん)思想(しそう)をキーワード(key word)としている、神仙とは”不老不死”であり、いちおう老子を祖とする説もあるが、伝説的な存在で生没年は無論の事、実在も不詳である、初期の道教は自然と一体を目指した多神教で多くの神格を敬う宗教である、即ち創設者不詳の民族宗教と言えよう、要するに世俗的願望に応え様とする宗教と言える、因みに道徳経とは上下二編すなわち、上篇(道経)と下篇(徳経)81章で構成される。
1993年中国の湖北省郭店村の墓の中から多量のbc4世紀頃の竹簡(ちくかん)が出てきた、大変な資料で老子との接点の多い資料と言われる。
農耕社会に多い三清像すなわち *
太清道徳天尊 *玉清元始天尊 *上清霊宝天尊、 *
関帝聖君(関羽)等々多様な神が存在している、儒教 佛教と並び中国に於ける三大宗教の一教である、道に付いての解説に竹簡や木簡の「道徳経(老子)」があるが、道とはに対する解説は無い様である、また著作年代も不詳である、また天帝に対しても詩経や書経等に現れるが、天は高きにあり道は低きにある、との記述はある。
道教の世界では新しい神を生み出す行動様式エトス(ethos)がある、従って高い文化とプライドを有しながら、仏教をも取り込める組織と言えよう、また仏教経典の漢訳者も道教のタームを利用した様である。
    
1985年に公開された香港映画「
霊幻道士」のキョンシー(死体妖怪・殭屍先生、 注5で馴染みの人もあるかも知れない、古い例を挙げれば牡丹燈籠(燈記)の幽霊淑芳(しゅくほう)が上品且つ色気充分で、気味悪い怖さを兼ね備えている。  
道教は儒教に対するライバル的な面があり、規範に忠実な儒教に対して「自然のままに」を標榜している、その土地で生まれ育った「土生土長(どせいどちょう)」すなわち中国に於ける土着信仰である、陰陽(おんみょう)・風水・漢方医学・鍼灸・気功術は道教が嚆矢である、因みに老子BC722年~BC481年を神格化した尊号を
太上(たいじょう)(ろうくん)と言う。 
道教は仏教や儒教と違い日本では表層に現れる事は無かったとの記述があるが、佛教の招来と時を同じくしている。
”福、禄、寿”(注7)と言う御利益を求める道教の組織的な調査研究は歴史が浅く百年を満たないといわれるが、思想は二千年以上前から存在したが始祖及びその年代は不詳である、但し1993年に湖北省の墓の調査でBC四世紀頃の老子に関連する竹簡(ちくかん)が多数発見された、日本に於いて道教研究者の組織が1950年(昭和25年)「日本道教学会」として設立された、
日本国内に存在する道観は、各地の *関帝廟、 *媽祖廟(横浜) *埼玉県坂戸市の台湾の道教寺院・(せい)(てん)(きゅう)、また釧路市の台湾鳳凰山指玄堂釧路分院、 *黄檗宗寺院に観られる寺がある様だ。


道教と言うタームは老子が著したとされる道徳経が嚆矢である、因みに道徳経の成立過程と老子の関わりも定かではない、しかし道教は万物の仕組みを説く「老子道徳経」を依経としている比率が高い、一説には「(タオ)」宇宙は総て本源的存在から自然発生した教えと言う記述がある。(道教の世界・創元社・遠藤ゆかり訳)
道教とは間口が大変に広い、老子は道に付いて語るが「タオすなわち道とは何か」には定義していない、「道には永遠に名が無い」とまで言う(道教の世界、菊池章太、講談社)、しかし端的に言えば現世利益の「福、禄、寿」すなわち、気の宗教であり日本の習俗に多大な影響を与えている、詳細は下述するが一例を述べれば六輝(ろっき)とか宿曜(すくよう)とも言うが「六曜(先勝、友引、先負、仏滅、大安、赤口)(注1」、「十二直説(注2」「御神籤(おみくじ)」「お札」等々がある、また道教思想は多義に亘る様で定説は存在しない、「得道成仙(とくどうせいせん)」、永世不死すなわち仙人(女仙を含む)に成る事を目指す漢民族の文化的遺伝子も道教の中核にある、・風水・易学・占術・漢方医学等が相当するが道教は中国に於いて自然発生した哲学で宗祖は不在である、また辟邪(へきじゃ)
疫を運ぶ鬼を懲らしめ退散させる善神信仰的と言える、因みに道教に於ける仙人とは不老不死の領域に到達した人を意味する、因みに仙人とは当初は僊人(センニン)と記述されていたらしい、「俗人から超越した能力を持ち、俗世の一切の欲望から自由であり、不老不死で肉体のまま天界に昇る」(道教の神と祭り・野口徹郎他・大修館書店と言う、但し仏教に於いては外道の修行者に相当する。
仏教が中国に伝えられたのは1世紀頃で上座部仏教であり道教と共通のタームを使い浸透した、従って仏像の請来は大乗仏教の時代からと言える、大乗仏教との交流は一般の在家には境界が不明確な程に頻繁であり、特に禅宗の文化哲学を踏襲している、三教一致・三教一論等々共通点を言われれが、仏教と道教等とは基本的な相違がある、即ち道教は子孫を残して先祖の祭祀を絶やさないことが孝行に繋がるが、仏教は出家する為に子孫は残さない為に大きなギャップが生じていた。
「道蔵」
(仏像経典の大蔵経に相当する)と言う経典を持ち、不老不死を標榜し神仙術
(きん)(じゅ)(呪禁 呪文 まじない)、符籙(ふろく)(神符 お札)、齋醮(さいしょう)(祈祷)や呪術を信仰する秘術esoteric的で超能力によるサルベージを容認する宗教である、批判を覚悟で言えば儒教は集団救済を担当し、道教は儒学に無い個人救済を担い共存したと言えよう。
但し仏教に於いても特に密教は不空等により著しく変質した、国家権力に迎合して「仁王護国般若波羅蜜多経」「文殊師利菩薩根本儀軌経」「葉衣観自在菩薩経」等、梵語原典に無い国王守護・護国等が記述されている、因みに不空の孫弟子が空海である。
一応最高神は三清すなわち
大羅玉清元天尊(だいらぎょくせいげんしてんそん)(元始天尊)) 大羅上清霊宝天尊(霊宝天尊) 大羅(だいら)太清道徳(たいせいどうとく)天尊(道徳天尊)が挙げられ続く系統は多説存在する。
・元始天尊・霊宝天尊
(太上道君・道の神格化)・道徳天尊太上老君(たいじょうろうくん)・老子を神格化)の三清を神格化し、・福・禄・寿と神仙に到達して永遠の生命の獲得を目指す哲学である、但し四世紀の理論書「抱朴子(ほうぼくし)」に道教と言う記述は無い、道教の大神とされる太上老君が道士寇謙之(こうけんし)の神勅は五世紀である、さらに儒教や佛教にも道教と言う熟語が使用され経典名や熟語は交錯している、一例を挙げれば「金光明経」「太上業報因縁経(だいじょうごうほういんねんきょう)(注6)、解脱、三界、三世、浄土、宿命等々三教の境界判別は不可能に近く、先に漢訳された仏教経典の熟語を、そのままの使用例や、梵語を道教の熟語に漢訳した例が多い、儒教や仏教との相違を挙げれば両教が否定する超能力・仙術・不老長寿法等によるサルベージを道教は容認することにある。 
中国に於いては道教・儒教・佛教の三教は頂点は独立して別々であるが、底辺に於いては共有化して境界は無い、三教調和的思想が強く関帝廟等を訪ねても三教の尊像が祀られている、五木寛之氏の百寺巡礼(巻2 講談社)に依ればシンガポールの、ある礼拝施設には ・イスラーム教 ・キリスト教 ・仏教 ・儒教 ・道教の礼拝所が混在していると言う、中国に・仏教 ・儒教 ・道教が同じ、日本に ・神道 ・仏教が同居する事に異常を感じるのは一神教の影響と言えよう。  
因みに桃源郷(とうげんきょう)とは東晋の陶淵明(とう えんめい)による「桃花源記」による道教哲学の描く理想郷である、礼記に拠れば中国すなわち中華思想はプライドが顕著で自国を中原とし隣接国を「五方之民」呼び野蛮な国とした()(ばん)(じゅう)(てき)と侮蔑文字を使用した、この高いプライドの国が唯一インドから佛教を受け入れた、但し中国の文化はインドの哲学を自国語で表す多くの文字を持っていた、一例を挙げればśūnya(シューニャ)を”空”、とか”無”と言う様に多様に表わされる。
道教では寺院に相当する施設を「観」「宮」「廟」等と呼ばれるが、一般には佛教、儒教、道教の境界は曖昧で三国志演義の英雄
關羽を奉る關帝廟などでは三教の神々は混成して奉られている、道教には二大宗派がある、華南に多い「正一教派」と華北すなわち北京を本拠とする「全真教派」である、因みに正一教派は在家者が大勢を占めて呪術儀礼を行っている、全真教派は基本的には出家主義で道観と言う施設で行を行う。 

概ね老子から始まる道教の看板思想に老荘思想であるが福永(ふくなが)光司(みつじ)1918726日〜20011220日)説に依れば中国には二つの文化があり、「南船北馬」即ち大地に関りがある北方は儒教が強く、海に関る南方は道教的との説を提唱されている。
儒教は・政治・文化の担い手であった知識人の哲学となり、道教・仏教の教説を参考にして教義を完成した、即ち集団救済の儒教に代わって個人救済を道教や佛教が代行したとも言える、従って三教の境界は不明確となり中国人は霊廟・関帝廟(かんていびょう)媽祖廟(まそびょう)天后(てんこう)廟)等、同一の廟に三教の神々を安置しているケースが多い、尊格も明王クラスには佛教と関連がある様で、道教の少年神で西遊記等に登場する天界一の暴れん坊「哪吒(なた)」の弟・金吒は軍荼利明王であり、木吒は観音菩薩の化身の弟子と言われる。
キリスト教の多くにマリア崇拝があり、ヒンズー教では カーリー(梵語 Kālī ドゥルガー(梵語durgā クマリKumari Kumari Devi仏教に於いては観音菩薩を女性化し、優しく包み込む女性信仰がある、道教にも西王母(せいおうぼ)媽祖、娘娘(まそ  にゃんにゃん)碧霞元君(へきかげんくん)等々多数の女神女仙が重要視されている、また
道姑(どうこ)と呼ばれる女性伝道者もいるが、儒教には観られない。
現在の中国大陸に於ける道教は機能していない、理由は道士の総てが中国共産党が掌握する「中国道教協会」に入り共産党の指示に従う事を義務付けられている、辟邪(へきじゃ)信仰の強要であろう。

道教は日本に与えた影響を挙げると、「修験道」「陰陽道」「漢方医療」「鬼門説」、だけでなく「六曜(歴注の内」、「御神籤(おみくじ)」「御札」「位牌」「盂蘭盆会(うらぼんえ)」、「中元節」、「三尸説(さんしせつ)」からの庚甲待(こうしんまち)信仰、勧進帳で弁慶が読む「九字の真言」等多義にわたる、また神道の儀礼にも道教の影響がある、仏教竜樹の「空」と老子の「無」の哲学とがリンクして中国で受け入れられた、因みに僧侶に相当する者を道士と呼ばれる、また「九字の真言」とは道士や修験者が手印を切り唱える呪文で「臨兵闘者(りんびょうとうしゃ)(かい)陣列在前(じんれつざいぜん)」と言う。
儒教との相違を敢て挙げれば、規範に従って行動する儒教に対して、道教は自然のままを重視している即ち水の様に生きる「上善如水(じょうぜんじょすい)(老子八章)であろう。

日本に於いて道教の影響を受けたものに、”六曜説”、”地鎮儀礼” ”雨乞い” ”御神籤(おみくじ)”陰陽五行(いんようごぎょう)”、”鬼門説”等々がある、これらは諸葛孔明(しょかつこうめい)の発案と言う俗説もある、結婚式に仏滅を避け、葬儀に大安を避けるが内容に意味がある様子はない。
道教に於ける出家者は道士と呼ばれ女性の場合は道姑(どうこ)と呼ばれ特有の服装がある。

平安京は道教の範疇にある風水の言う()(じん)相応(そうおう)を備えた処とされている、即ち丹波高地(北)を玄武、大文字山(東)を青龍砂、嵐山を白虎砂(西)()(ぐら)(いけ)(南)朱雀とする事で、背山臨水を左右から砂で守るという風水に相応していた、但し巨椋池の干拓で現在は相応していない。


陰暦の計算式   月+日付÷6=X、 X+-0=大安(たいあん) X+1=赤口(しゃっつこう) X+2=先勝(せんかち) X+3=友引(ともびき) X+4=先負(せんまけ) X+5=仏滅(ぶつめつ) となる、仏滅であるが仏教とは無関係で近年まで”物滅”と記述されていた様だ。 

 

 

1、 六曜であるが中国の発祥であるが、招来した過程で中国の「事林広記(じりんこうき)」と日本と比較すると、大安(大安)、 友引(留連(りゅうれん))、 先勝(せんかち)(速喜)、 赤口(しゃっこう)(赤口)、 先負(せんまけ)(小吉)、 仏滅(空忘(くうぼう))となる、()内が事林広記、また鬼門関連に付いては現在中国では使用されていない様である、()内が事林広記の記述である。 

 先勝   急げば勝てる、AMは吉、PMは凶  
 友引  引き分けが多い、日中は凶  
 先負  急ぐと凶、 AM凶、PM吉 
 仏滅  大凶 
 大安  総てが吉 
赤口    凶、日中は吉 

 

2、 十二直説は、たつ(達)、のぞく(除)、みつ(満)、たひら(平)、さだん(定)、とる(執)、やぶる(破)、あやぶ(危)、なる(成)、おさん(納)、ひらく(開)、とず(閉)である。

3、 運勢暦には九星占いもある、一白(いっぱく)水生、 二黒(じこく)土星、 三碧(さんぺき)木星、 四録(しろく)木星 五黄(ごおう)土星、 六白金星、 七赤(しちせき)金星、 八白土星、 九紫(きゅうし)火星、である。


4、 オランダに於ける中国研究の第一人者で「中国の仏教伝来」の著者であるエーリク チュルヒャーの比喩を要約すれば中国に於けるピラミッドの頂点は・道教・佛教・儒教と複数あるが、麓に下るにしたがい混淆して境界は不明になると言う。(儒教、仏教、道教 菊池章太 講談社)


注5、
キョンシー(殭屍)とは中国の死体妖怪と言われる、硬直した死体であるが年月を経ても腐乱せず動く怪談上の変死体。

6、道教経典の一典である、753年道教寺院の白鶴観に於いて玄宗皇帝の為に書かれたとされる、京都国立博物館にH25.5cm 349.0cm 唐時代。

注7、七福神の一神、 道教に於ける理想的な三種の幸せ願望を言う、 福=幸福  禄=財産  寿=永遠の生命(不老長寿)。 



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