向源寺(こうげんじ)(渡岸寺)

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寺伝に依れば聖武天皇の勅願を受けて泰澄(たいちょう)と言う奈良時代の修験僧により創建されたと言うが定かではない、山号を慈雲山と言い比叡山延暦寺の対岸にあり790最澄が桓武天皇の勅願を受けて天台宗の古刹・光眼寺として七堂伽藍を誇示したが姉川の合戦で焼失する、灰塵と化した寺を住職巧円が信長に敵視された天台宗から真宗に変更して向源寺とする。  
湖北地方は観音信仰の里であり各部落毎に十一面観音が安置され深く信仰されている。
付近の小さな庵に参拝に訪れると郷人から自分たちが守る観音様に参詣に訪れてくれた挨拶をされる。
観光地への古寺巡礼でなく聖地への巡礼をしている思いがする。
琵琶湖周辺には多くの戦が継続して多くの兵士が湖底に沈み、陸上にも戦死者出た事であろう、これ等の戦死者を供養する為か、20尊程の十一面観音が存在している、特筆に値する代表的十一面観音が渡岸寺に安置されている、彫刻としても日本最高傑作の一尊と言える国宝十一面観音立像がある、脇面に忿怒面と牙上出面を置きやや異形ではあるが、この観音の前に座すると寺の沿革を知る等の概念が消える。
この像には佛師の心が彫られていると言う現代の佛師も居るが同感である、この仏像には長谷寺の十一面観音像
(長谷寺型)との共通性が考えられる、即ち台座に錫杖の跡があり地蔵菩薩との習合尊の可能性は高い。
また通常仏像は参拝者が正面から拝むことを計算されて側面や背面には配慮が少ない像が多いが当寺の十一面観音は如何なる方向から見ても完璧に近い作との感慨を持つ。
姿形的にも通常の観音の十一面とは配置が異なり顔の側面背面にも顔が置かれ頭部には胎蔵界の五佛も置かれる、因みに三面とも観える左右の顔は過去と未来も眼を配る意味合いと推察できる、もう一つ向源寺の特徴は通常十一面観音の頂上仏は菩薩が悟りを開いた姿、すなわち如来であるが当寺の場合は五仏宝冠を着けた菩薩像である,また寿命の長さと敬愛を示す長指相(32相の3)が採られている、
本面の両脇面を持つ向源寺十一面観音と共通点を持つ像を挙げると、カシミール(Kashmir)で出土し現在はクリーヴランド美術館(Cleveland Museum )にある・十一面六臂観音があり、本面と両脇面、中面と両脇面が二段あり単面が二層即ち3:3:3:1:1の五層構成の十一面が知られている
十一面観音は阿修羅道からの救済を目的とされるが、古来より戦場跡の供養を目的としたトーテムポールtotem pole的な存在感を持つ観音像でもある、織田信長と浅井、朝倉連合軍との戦いに於いて、十一面観音を必死に守った里人たちの行動は因果律(causality コーザリティ)を信じない稚拙な私にも因果的なアイロニー(irony)を感じざるを得ない、因みに仏教は因果律が総てであり「善因楽果(ぜんいんらくか) 悪因苦果(あくいんくか)」即ち良い行動には良い報いがあり、悪事を行えば悪の酬いがあると言う。         
天台宗の古刹十一面観音の寺として知られた渡岸寺も戦禍による荒廃があり、原因は定かではないが僧・巧円と住民たちは当時破竹の勢いの一向宗すなわち現在の真宗大谷派の所属に所属し向源寺として現在に至る、付近の寺に天台宗の牙城とも言えるエリア内に真言宗智山派(ちさんは)などが多いのは信長の天台宗敵視に対する防御かも知れない。
渡岸寺には十一面観音の隣に胎蔵生系、すなわち法界定印を結ぶ大日如来が安置されており、新しく作られた台座に不釣り合いが感じられるが必見の秀作である、信長の攻撃で何れかに隠したのであろうが、大日如来の秀作が「台無しの」時期が存在した様だ、巷間言われる「○○が台無し」の語源は台座無しからきている。
収蔵庫が改築された、収蔵庫的なイメージで仏像と真摯に向き合う尊厳さと天井の高さが気になるが、スペースも以前より広く取られて照明も明るく仏像の表情が比較的見やすくなった、また土地の仏師の手になる渡岸寺十一面観音の比較的精緻な摸彫像が0,5q西の高月町役場の正面に置かれている、また近くの「高月観音の里歴史民俗資料館」には春日神社に伝わった特異な表情をした鎌倉時代と考えられる二尊の神像がある、瞑想像か思惟像か定かではないが一見に値しよう。

                       
真宗
大谷派      所在地   伊香郡高月町渡岸寺                  
 

主な文化財

十一面観音立像(宝冠に五仏) 木造 177,3cm 平安時代  

大日如来坐像(法界定印)木造 148,5cm 藤原時代


寺院リスト

最終加筆日200492日 2011年3月28日 2013年3月9日 2015年1月11日 民俗資料館リンク  2021年12月23日


 

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