観音経(かんのんぎょう) (法華経 観世音菩薩普門品第二五)

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大乗経典の代表的かつ普遍的な経典である、日本に限らず大乗佛教の受容国で最も多く説かれている「法華経」の内「観世音菩薩普門品第二五」に存在するが、本来は独立していた経典を中国に於いて隋時代に法華経に組み込まれた経典である、組み込まれた理由として救済のために観音の十方に向いた顔から組み入れられたとする説がある、「観音がこの心呪を得ると”無生法忍(むしょうぼうにん)を取得した一切如来たちが、十方に於いて観音の前に出現”と説かれている(耶舎崛多訳、仏説観世音神呪経)、因みに法華経普門品の「普門」とは、あらゆる方向に開かれた門を意味する、法華経の中でも最重要な品であり*方便品第二 *安楽行品第十四 *如来寿量品第十六と共に「四要品」(四品)にランクされている、正木晃(法華経、春秋社)説に依れば法華経が興隆した原因の一つとして組み込まれている観音経は難解な思想、哲学が無く現世利益の経典で理解が容易である為と言われる、当時は観音菩薩だけでなく薬師如来が国分寺に多いのも同様であろう、因みに無生法忍とは「一切のものは不生不滅であることを認める事」で三法忍(さんぽうにん)の一忍である、音響(おんこう)忍」「柔順(にゅうじゅん)忍」「無生法(むしょうぼう)忍」を言う、即ち説法を聞き信認し受け入れ、真理に随順で、真実を覚る 
観音経の人気は
()し無量百千萬(のく)の衆生ありて、諸々の苦悩を受けんに、この観世音菩薩を聞きて一心に名を称えれば、観世音菩薩は即時(ただち)にその音声を観じて皆、解脱(まぬが)るることを得せしめんと説かれている処であろう、佐久間瑠理子説に依れば観音信仰を説く最古の経典と思惟されると言う、観音菩薩による功徳と霊験を説いており日本に於いては通名「観音経」と呼ばれている、浄土宗浄土真宗系を除く多くの宗派で読誦されている、因みに”普門”とは鳩摩羅什(注1による漢訳で梵語ではsamanta mukha(あらゆる方向に顔を向ける)と言う。
観音経は鳩摩羅什
訳の「妙法蓮華経」第二十五品が主に使われている、偈文即ち世尊偈は406年の鳩摩羅什訳には無く601年の闍那崛多(じゃなくつた)達磨(だつま)(ぎゅう)()の共訳による「添品妙法蓮華経」に登場する、また竺法護(じくほうご)239316年)訳にも存在せず梵語原典には記述が無く後に於いて加筆されたとされる、観音経の浄土教典系に於いて観音菩薩とペア―を組む勢至菩薩の役割は法華経・常不軽菩薩品第二十、に於いては釈尊の説法を聞くだけの役割である。
釈尊が無尽意(むじんに)菩薩の質問に答える形で語りかける形態をとり、観世音の銘々説明(因縁)、無量百千万億(無数)の衆生を前に善男善女誕生に応える二求(にぐ)の成就や、七難・三毒に遭った時観世音菩薩の名を一心に唱えれば、その願いに応じて救済に現れるとされる、七難(注3とは解釈は分かれるが火難・水難・風難・刀杖難・悪鬼難・枷鎖難(かさ)・怨賊難を言う、また三毒とは貪欲・瞋恚(しんに)・愚痴を言う、因みに無尽意菩薩の無尽意とは「尽きる事の無い」を意味する。
又「遊於娑婆世界(ゆうをしゃばせかい)」すなわち娑婆に遊びに来て三十三(三十三応身)の姿に変化し時空を超越して救済・十九の説法に表れるという、観音の普門示現(ふもんじげん)すなわち化身数に相違が観られる、即ち梵語原典では十二身であり漢訳に於いては土着信仰の神々や霊を取り入れ三十五身と成っている、観音の変化に付いて通常は男女合わせて三十三であるが、植木雅俊氏は梵語sasktaでは十六変化であり総て男性である、また竺法護の漢訳は十七変化であると言われる。 
現世利益、即ち全ての願いが叶えられるとされることから最も人気の高い経典で密教系の観音の出現以来中国・日本に於いて多くの霊場が成立した。
普門品の言う観音菩薩の持つ現世利益的な信仰はインド土着信仰を色濃く取り入れており、成仏を目的とする古典仏教とは異なる尊格と言える、さらに無量寿経に於いて阿弥陀如来の脇侍として宝冠など装いを凝らしして顕れることは方便そのものと言えよう。

脱線するが”方便”とは梵語の upāya (ウパーヤ)の意訳であり、「手段」「方策」「接近」「到達」等々が元来の意味である、日本発祥のインスタントラーメンの中国名は「方便麺」と記述されている。
念彼観音力(ねんぴかんのんりき)」観音の名前を称えて、ただ信ずればサルベージが与えられる、因みに2062文字の短い経典であるが「念彼観音力」は十三回記述がある、「観音妙智力」を加えると十四回程になる。
中国に於いて唐の時代に千手千眼観音の信仰が行き渡ると各地に観音霊場が起こる、日本では西国三十三所を初め多くの霊場が広がりを見せる。
観音信仰は色濃くヒンズー教色を持っており現世利益を標榜している、釈尊の説いた初期仏教の得脱(とくだつ)とは
コンフリクトconflict・矛盾する)すなわち二律背反と言わなければならない、因みに得脱とは苦界から脱出して菩提に向かう事とされる。
偽経とされているが臨済宗に於いては重要視されている「延命十句観音経」と言う四十二文字の経典がある、経名にある冒頭の延命は白隠により加筆された、「観世音(かんえおん) 南無仏(なむぶつ) 興仏有因(よーぶつうーいん) 興仏有縁(ようぶつうーえん) 仏法有因(ぶつほううーえん) 仏法有縁 仏法僧縁(ぶっほうそうえん) 常楽我浄(じょうらくがじょう) 朝念観世音(ちょうねんkんえおん) 暮念観世音(ぼーねんかんぜおん) (ねん)(ねん)従心起(じゅうしんき) (ねん)(ねん)不離心(ふーりーしん)」。 
観音菩薩に帰依します  仏とは因果と縁で結ばれている  仏縁により楽しく清浄に暮らせます  朝晩観音菩薩を念じます  念心は離れる事は無い。
延命十句観音経の他に著名な偽経に「高王観音経」が知られている。
白隠(はくいん)()(かく)は「延命十句観音経」を偽経と承知しながら観音講等に採用し臨済宗
中興の祖と慕われた。

法華経には四品(四要品)として重要視される品がある、宗派により解釈に相違はあるが、*2方便品 *14安楽行品 *16如来寿量品 *25観世音菩薩普門品が四品として重要視されている。 


 

1鳩摩羅什kumarajiva クマーラジーバ)344413年  

2、 (法華経・観世音菩薩普門品第二五)によると南無観世音菩薩を唱えると排除してくれると言う七難とは以下を言う。
(1)大火の難ー煩悩の火や火災
(2)大水の難ー洪水や誘惑に溺れない
(3)羅刹の難ー空中で人を食う鬼の国、非常な恐怖                                            
(
4)刀杖の難ー危害
(5)悪鬼の難ー襲撃
(6)怨賊の難ー防怨
(7)忸械枷鎖(ちゅうかいかさ)ー罪の有無に関らず手枷足枷をされる等の難である。
観音経の最前部分
爾時無盡意菩薩 即従座起 偏袒右肩 合掌向仏 而作是言 世尊 観世音菩薩 以何因縁 名観世音 仏告無盡意菩薩 善男子 若有無量 百千万億衆生 受諸苦悩 聞是観世音菩薩 一心称名 観世音菩薩 即時観其音響 皆得解脱 
(無尽意菩薩が合掌し世尊に聞く 観世音菩薩銘々の因縁を 菩薩に告げる 百千万億の衆生が受ける苦悩に対して観世音菩薩の名を一心に称えれば、その声を聞いて解脱即ち苦悩を免れる)。
観音菩薩の七難に関しては「 仁王般若経(にんのうはんにゃぎょう)受持品(じゅじぼん)」にも記述があり、少し内容に誤差がある。  



4、 観世音菩薩普門品第二十五には普門示現(ふもんじげん)が説かれている、観音菩薩が衆生を救済するには、衆生の機根すなわち性格やレベルに合わせて33の姿に変えて現れる、
主な三十三応現身 観音菩薩一切の衆生を救済する手段として状況に応じて変化しする、主な変化を挙げると、 仏身(如来の姿) ・声聞(若者の比丘) ・辟支仏身(びゃくし・壮年の比丘)  ・帝釈天 ・梵天 ・自在天 ・毘沙門天 ・優婆塞身(うばしくしん)(upāsaka) ・在家信者) ・優婆夷身(うばいしん)在家信者女性)(upāsikā)  ・阿修羅身 ・迦楼羅(かるら)身 ・緊那羅(きんなら)身 ・摩睺羅迦(まごらか)身 ・婆羅門(ばらもん)身 ・長者身 ・居士身 ・人身(貴人) ・非人身(卑身)などに姿を変え救済すると言う、33と言う数は無限の数を意味する。  


5、 主な三十三観音  法華経普門品、所謂「観音経」に於いて観音菩薩が33の姿に変えて衆生を救うとされる、注4、の様に化身せず観音菩薩の姿で変化する、   楊柳(ようりゅう)観音菩薩  ・竜頭観音菩薩 ・持経観音菩薩 ・円光観音菩薩 ・遊戯観音菩薩 ・蓮臥観音菩薩 ・白衣(びゃくえ)観音菩薩  ・水月観音菩薩  ・滝見観音菩薩  ・多羅尊観音菩薩  ・瑠璃観音菩薩 ・魚籃(ぎょらん)観音菩薩  ・延命観音菩薩  ・岩戸観音菩薩  ・蛤蜊(はまぐり)観音菩薩  ・合掌観音菩薩  ・一如(いちにょ)観音菩薩  ・持経(じきょう)観音菩薩   等がある。

 


20061119 十句観音経  2007416日普門に意味 200939日  201377日 十句観音経2014126日 2016年8月23日 12月6日 2017年5月15日 2018年2月24日加筆

 

 
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