安然(あんねん)     841~不詳(没年50歳頃)

            天台宗   延暦寺   園城寺  最澄  円仁  高僧


 

天台密教に於ける教相(理論の大成者である、滋賀県の出身で最澄の縁戚とも言われる、円仁の弟子で比叡山真言宗とまで称した、これは空海の真言宗と言う意味では無く大日如来を軸とした安然の真言宗とされる、天台随一の碩学と言われ円仁、円珍に続き台密に於ける教学理論及び実践面の完成者である。

密教の内容に於いては教相(きょうそう)事相(じそう)に分類できるが、教相は教理的な研究を言い、事相は実動修行の方法をいう、教相は事相の原理を説明する、事相は教相の原理下で実践の行を行う、事相・教相は表皮一体でなければならない。
自身が創建した
五大院に住んだことから・五大院大徳・五大院阿闍梨・阿覚大師・福集金剛・真如金剛等と呼ばれた、安然の主張は一大円教にある、即ち仏の教義は全てが密教であると言う、安然は五教判すなわち、四教の・蔵(三蔵教、小乗)・通(初歩の大乗、声門、縁覚、菩薩)・別(別教、菩薩を説く)・円(三諦円満な縁融法門)の上位に密教を据えて、顕劣密勝すなわち、真言密教を最高の法門と強調した、安然の理論は「仏の所説乃至(ないし)その法門は悉く真言教」と言い、五教判即ち「円劣密勝」で天台の伝統である密教を四教の上位に於いた、即ち天台宗も真言密教に包括されていると言う、他に教えはなく毘盧遮那如来一佛のみで、諸仏も大日如来そのものであると言う教説で一神教的な要素が加わる、但し偶像崇拝を容認しておりキリスト教イスラム教との隔たりは大きい。

若年から顕教・密教・三部大法、即ち両部大法(大日経義釈や金剛頂経義訣など)に蘇悉地、悉曇を学ぶ、入唐を目指したが果たせず、入唐八家の請来経典類を研究しまとめた、四宗兼学の内、円法華経・戒(戒律)・を否定し密教に統一した。
閑話休題蘇悉地羯羅経Susiddhikāra Sūtra, スシッディカーラ・スートラ 蘇悉地経は大日経、金剛頂経と共に大日三部経の一経とされている、三部経の呼称に付いて東密では真言三部経と呼ばれ、天台では台密三部経と呼ばれる
空海の秘密曼荼羅十住心論に対抗できる論客は日本佛教界からは徳一を除いて一世紀程現れず、安然の「胎蔵金剛菩提心義略問答抄」が著されて対抗出来るようになった。
また徳一が反論した程度で批判者が無かった空海の天台宗を一道無為心
(真言よりも二段下位)にランクした「十住心論・顕密論」を「胎蔵金剛菩提心義略問答抄」を著して一世紀ぶりに批判している、しかし真言宗との境界が曖昧になり宗派内から批判を受け、晩年及び没年の詳細はよく解らない、安然のラジカルな手法は天台の円、禅派等から酷く疎まれるが台密を維持する為の手法であったとの説がある。
安然は円珍と共に不動明王信仰に篤く、十九の観想法を示す「不動明王立印儀軌修行次第」を著す等、天台宗の不動信仰の隆盛に貢献した、因みに青蓮院の国宝・不動明王像は安然の十九の観想法を基に描かれている。
空海
の真言宗よりも優位を論じ、著作に「真言宗教時義」「八家招来録」「悉曇蔵
八巻」「教時問答」「教時諍論」「菩提心義抄」等がある。
五大院に住んだことから五大院阿闍利・五大院先徳・阿覚大師などと呼ばれた。
時代の要請か密教に偏重して東密との相違が不明瞭になり比叡山内部から反感を買い、晩年は不遇であった様である、示寂場所や年代は不詳である。

橋本凝胤師が空海を誹謗したり、天台の様に怨念を持つには理由がある、空海の密教と顕教の位置付けを著した著作で空海最大の力作と言はれる「秘密曼荼羅十住心論」と簡略本「秘蔵宝鑰」で日本の宗派を十ランクに分け、法相宗のランクを”他縁大乗心”すなわち最上位の真言宗よりも四ランクも下に、天台宗を三番目に於いた事に在ろう、これで天台宗派自信を失い約一世紀後に安然が「胎蔵金剛菩提心義略問答抄」を著し天台の自信回復の礎を作った功労者である、空海の十住心論は日本仏教界に於いては日蓮の四箇格言よりも屈辱的な格付けと言える、因みに四箇格言とは「念佛無間」「禅天魔」「真言亡国」「律国賊」である

 


1入唐八家とは最澄空海円仁円珍・円行(真言宗)・常暁(真言宗)・恵運(真言宗)・宗叡(真言宗)を言う。 


2、 悉曇蔵(しったんぞう) 清和天皇の勅命で安然が著した梵語世界の学問全体を八帖に纏めた解説書で、延暦寺に写本が残る。
悉曇蔵 紙本墨書 延暦寺 平安時代   梵文本源 悉曇韻紐 章藻具闕 編録正字 等八帖。

3、 立印儀軌修行次第に著される不動明王の十九の観想法を抜粋すれば「大日如来の化身」「卑しく肥満体」「左肩に弁髪を垂らす」「左眼を閉じる」「右臂に剣を持つ」「左臂に羂索を持つ」「迦楼羅炎光背」「二童子を従える」などがある。

  

 


  

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