梵語名は明確ではないが、Cintāmaṇicakra(チンターマニ チャクラ)
関連経典の漢訳は八世紀初めに創められた様である、
「如意輪陀羅尼経」を主に典拠としており一切の衆生に対して救済するという、如意とは如意宝珠の事で輪は輪宝である、如意宝珠を中央に持ち功徳(財宝・福徳・知恵)を施し人々を六道からの苦を救い輪宝(手裏剣の様な輪)を使い煩悩を打破しようとする物質・精神面に功徳を与える菩薩である、名前の由来であるあらゆる願いが叶う珠、すなわち如意宝珠(
転輪聖王獅子吼経の
因みに関連経典を挙げると・「観世音菩薩秘密蔵如意輪陀羅尼神呪経」
姿形的には多くの形が儀軌に説かれており後述するが二臂・四臂・六臂・十臂・十二臂など異像も多く、官能性を示した像も現れ始める、日本では八世紀頃に広まったとされるが、胎蔵曼荼羅の観音院のの尊容が多い。
如意輪観音の請来は天平以降、即ち聖武天皇の看病禅師である慈訓や安寛が手にした「如意輪陀羅尼神呪経」(漢訳は八世紀初頭i)
「六角堂夢告」であるが頂法寺には親鸞が夢告を受けたと言う六角堂の本尊は如意輪観音で厳重秘仏にされている、但し六角堂夢告の話は西山浄土宗の祖である證空も「西山上人縁起」、西照寺本「聖徳太子夢中顕現曼荼羅」等に関係があり、法然一門で知られていた様である。
如意輪観音は二臂像と六臂像が普遍的であるが二臂像は如意輪観音と確定し難い尊像が多く、数的にも空海が請来した密教の六臂像が多い、冠には自在王の化仏を付け、通常の六臂相は密教像で”輪王坐”に坐り六道の中で苦しむ衆生を救済する為とも言われる、具体的には。
*右臂
右第一臂・
右第二臂・
右第三臂・数珠、(畜生道以下を救済)
*左臂
第一臂・
第二臂・蓮華 (浄化)
第三臂・輪宝 (煩悩を砕く)
ただしインドに於いては衆生の願いを成就させる事を如意輪と言い、「自在に輪転」と理解されている事から輪宝は所持しない、重ねて言えば思惟相と如意宝珠が如意輪観音の必須アイテムと言える。
東大寺大仏殿の毘盧舎那佛の脇持として造像されたと言い奈良時代に造像されたと言われるが、一般に如意輪観音は平安時代以降に造像され女人救済と共に密教が興隆し六臂像が主流となる、胎蔵曼荼羅の観音院に在る様に密教系の寺院に多く遺品が残る、六臂像の如意輪観音は醍醐寺・室生寺・神咒寺等に秀作が揃うが代表作は観心寺と言えよう、観心寺の場合は六臂の内一臂を立膝の上に置き頬に充てる姿形で曼荼羅と同形である、因みに観心寺如意輪観音のモデルは嵯峨天皇の皇后・橘嘉智子すなわち檀林皇后と言われている、また神咒寺のモデルは淳和妃の真井御前(如意尼)とか言われる。
奈良時代頃は一面二臂の半跏思惟像を如意輪観音とする信仰があったとも言われ・中宮寺 ・宝菩提院(京都市西京区大原野)の菩薩半跏像は寺伝よれば如意輪観音とされている、如意輪観音のご利益の特徴は煩悩の打破にあり、特に中宮寺の菩薩像は亀井勝一郎氏の著作・大和古寺風物詩の言う傷心の心を癒す仏である、仏像には信仰者に対する心が内包されており如意輪観音が相応しく映る、閑話休題この尊像には「悉達多太子(siddhãrtha)」略して
両部の大経には説かれていないが「観自在菩薩如意輪瑜伽」に像容の記述がある、密号を「持宝金剛」と言い如意輪観音は密教色の強い菩薩である、密号とは密教に於ける結縁灌頂に使用される呼称を言い金剛号・灌頂号等とも言われている、因みに瑜伽とは梵語(saṃskṛta)でyoga(ヨガ)の音訳である、原義としては“相応”、“結合”を意味するがヨーガとの解釈が適当と考えられる
真言宗小野流・三宝院流などに於いては特に重要な菩薩で阿闍梨(入壇)に成る為の伝法灌頂を受ける際に修行者が最初に出会う菩薩である、真言僧が得度した後に伝法灌頂に
四度加行の潅頂は両部の大経、双方に説かれており金剛界法と胎蔵法の潅頂儀礼を受ける必要がある。
灌頂には僧侶以外の受ける
阿闍梨の種類は特に選ばれた大阿闍梨、法を指導する教授阿闍梨、灌頂を受けた伝法阿闍梨、高貴な身分の者がなる一身阿闍梨、勅命による七高山阿闍梨などが在る。
また如意輪観音は六観音の一尊である、六観音とは浄土信仰と共に中国で生まれたもので大悲観音(千手観音)など六尊を拝んで輪廻から抜け出す手段と考えられた、六観音には救済に赴く六道に夫々の担当があり以下のようになる、但し輪廻の本家であるヒンズー教世界に於いては天上界、人間界、畜生道、地獄道の四界で示される。
・地獄道――聖観音菩薩
・餓鬼道――千手観音菩薩
・畜生道――馬頭観音菩薩
・修羅道――十一面観音菩薩
・人間界――准胝観音菩薩
・天上界――如意輪観音菩薩とされている。
天台宗では准胝観音を仏(仏眼仏母)に分類している為に六観音から除外して不空羂索観音を当てている、中国で信仰された六観音とは天台宗の「摩訶止観」から来ており大悲観音・大慈観音・師子無畏観音・大光普照観音・天人丈夫観音・大梵深遠観音を言われる。
1997年の時点で国宝重文指定の像は34尊あり 坐像22尊 ・半跏像12尊で分布状態は 奈良県10尊 ・京都府7尊 ・大阪府5尊 ・滋賀県4尊となる。
三重県四日市市六呂見町に観音寺と言う浄土宗の寺がある、一瞬孔雀明王と錯覚しそうな像がある、寺伝に如意輪観音(29.8cm木造素地、彫眼)と言う金色で四足八頭と言う怪鳥に乗る奇像が安置されている、また怪鳥に付いては神武東征を導いた
*「観世音菩薩秘密蔵如意輪陀羅尼経」
真言 オン バラダ ハンドメイ
注1、 如意宝珠 桃の様な形の珠であらゆる願いをかなえてくれる、Cintāmaṇicakra(チンターマニ チャクラ)とは輪宝で総ての願望を叶え苦悩を止めるの意味。
注2、 輪宝 丸い手裏剣で煩悩などを打ち砕く、また古代インドに於ける伝説上の聖王とされる転輪聖王のシンボルとの説もあり、仏像崇拝が起こる以前に足跡などと共に崇拝の対象物であった、また如意輪観音の別称に「大梵深遠観音菩薩」等と言う呼称が見られる。
注3、転輪聖王とは梵語ではrājācakravarti 輪を用いる王の意味で古代からインドに於ける伝説の大王である、インドを制圧に対して天よりcakra(チャクラ)すなわち輪宝を感得したと言いヒンズー教・ジャイナ教とも共通の英雄とされている、輪宝は武器の一種とも戦車の車輪とも言われる。
注4、 下表の内、中宮寺・宝菩提院は寺伝が如意輪観音の為同型の広隆寺弥勒像と共に重複記載。
注5、 観心寺・室生寺・神咒寺(西宮市甲山町)の像を日本三如意輪観音とされる、六臂に付いては「観自在如意輪菩薩瑜伽法要大正蔵」には六臂は六道及び六観音菩薩を顕すと言う、海外の絵画でボストン美術館所蔵の如意輪観音 一面六臂(絹本著色 98.8cm 44.7cm 12世紀)が著名である。
注6、 ソグド語、4世紀頃中期イラン付近で使われたが現在は死語。
主な如意輪観音像 ○印国宝 ●印国指定重文
○観心寺 木造彩色 輪王坐像六臂像 108,8cm 金堂 日本三如意輪観音 平安時代
○宝菩提院 木造 半跏二臂像 137,2cm 寺伝如意輪 平安時代
○中宮寺 木造 半跏二臂像 87,0cm 寺伝如意輪 飛鳥時代
○広隆寺 木造 半跏二臂像 84,2cm 弥勒像 隋時代 参考
○広隆寺 木造 半跏二臂像 66,4cm 泣き弥勒 白鳳時代 参考
●室生寺 坐像 木造漆箔 78,7cm 藤原時代 灌頂堂 日本三如意輪観音の一尊
●神咒寺 坐像 木造彩色 97.8㎝ 藤原時代 日本三如意輪観音の一尊 (兵庫県西宮市甲山町25-1 ℡ 0798-72-1172)
●石山寺 木造漆箔 木造漆箔293,9cm(秘仏、33年に一度開扉)藤原時代
●石山寺 半跏 木造漆箔 40,3cm 藤原時代
●東大寺 坐像 木造漆箔 木造 漆箔 722,5cm 江戸時代 大仏殿
●東大寺 半跏像 銅像鍍金 32.8㎝ 平安時代
●園城寺 木造漆箔 91,5cm 藤原時代
●橘 寺 木造漆箔 170,0cm 平安時代
●如意輪寺 木造漆箔金泥 55,4cm 平安時代
●如意輪寺 木造 漆箔 彩色 玉眼 105,1cm 鎌倉時代
●斑鳩寺 木造漆箔 247,2cm 室町時代
●岡 寺 坐像 彩色 塑像 458,1cm 平安時代 日本最大の塑像であるが補修箇所が多く彩色も脱落、当初は半跏像であった。
●岡 寺 半跏 銅像 鍍金 31.2cm 奈良時代
●広隆寺 半跏 木造漆箔 71,5cm 平安時代
●法隆寺(聖霊院) 坐像 木造漆箔 126,3cm 藤原時代
●法隆寺 坐像 木造 17,9cm 唐時代
●橘寺 坐像 木造漆箔 藤原時代
●醍醐寺 坐像 木造漆箔 49,6cm 平安時代
●大報恩寺(千本釈迦堂)木造 立像 96.0cm 六観音の内 肥後別当常慶作
●室生寺(灌頂堂)坐像 木造漆箔 78,7cm 藤原時代
●観音堂 木造 81.cm 半跏像 平安時代
●醍醐寺(清滝堂)坐像 木造漆箔 49,6cm 藤原時代
●百済寺 銅像 23.4cm 半跏像 菩薩半跏思惟像 (滋賀県愛知郡愛東村)
●平等寺(京都 因幡堂) 坐像 木造漆箔 玉眼 81.2cm 鎌倉時代 (京都市下京区烏丸松原上ル東入ル因幡堂町728
●透玄寺(京都
●観心寺 木造彩色 57,8cm 平安時代
●奈良国立博物館 木造 94,9cm 平安時代
●法蔵寺(滋賀) 絹本着色 1幅 123,9cm×91,7cm 鎌倉時代 (滋賀県彦根市南川瀬町1195)
●松尾寺(京都) 絹本着色 1幅 102.5cm×54.3cm 鎌倉時代 一山一寧 賛
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●奈良国立博物館 木造榧材 一木造 95cm 平安時代 伝承では海中より出る
最終加筆日 2004年6月28日 2005年2月6日 6月2日 2006年9月10日四度加行 2008年12月15日 2017年11月20日 2018年9月29日 10月9日 2020年1月11日 6月6日10月2日 2021年3月29日 2022年3月26日 4月6日加筆